予約ランプが灯るまで

有馬依織の妻は、明日の朝の米を炊いてほしいと言った。

「六時四十分。お母さんが七時に来るから」

依織は、明日という言葉を聞かないふりをした。医師は、妻が朝まで持たない可能性を伝えていた。妻自身も知っている。それでも炊飯器の時刻を指定した。

「お義母さん、朝はパンじゃなかった?」

「こういう日は米を食べる人だから」

妻は寝室のベッドから台所へ声を届かせた。いつもなら自分で炊飯予約をする人だった。

依織は米びつを開けた。残りは二合半。妻は二合でいいと言った。計量カップをすり切るたび、白い粒がさらさら落ちる。

半合だけ残す理由を聞くと、妻は「土曜のお粥」と答えた。今日は木曜だった。依織は土曜まで米びつを開ける人がいるか考えず、半合を袋の底へ残した。カップの縁からこぼれた三粒も拾って戻した。

内釜に水を入れ、手で米を回す。一度目の水はすぐ白く濁った。依織は流しながら、明日の朝に自分が何をしているかを考えないようにした。義母が来る。炊きたての匂いがする。妻の部屋の扉が閉じているかもしれない。

「三回でいいよ。研ぎすぎると割れる」

寝室から声がした。

依織は四回目の水を入れかけて止めた。三回で濁りはまだ残っている。妻の言う通りにする。

二合の線まで水を注ぐ。内釜の外側についた雫を布巾で拭き、炊飯器へ収めた。炊飯器の横には、妻が朝使う茶碗が二つ重ねてある。依織は一つに減らさず、そのままにした。

蓋を閉じる音が思ったより大きく、寝室を振り返った。

「時間、間違えないで」

「分かってる」

操作パネルには現在時刻、二十二時十一分。予約ボタンを押すと、前回の設定で六時三十分と表示された。

十分快い。妻は十分遅いほうを頼んだ。依織は時刻ボタンを一度押した。六時四十分になる。

確定の前に指が止まった。予約を入れなければ、明日は始まらないような気がした。炊飯器は何も急かさず、数字だけを光らせている。

寝室から、布団がわずかに動く音がした。

依織は決定ボタンを押した。

小さな電子音のあと、六時四十分の表示の横に、橙色の予約ランプが灯った。