二人分の湯たんぽ
祖母の世津と暮らすようになって、香央は湯たんぽを二つ用意する。
金属製の古いものが祖母用、柔らかな樹脂製が香央用。夜、薬缶の湯を順番に入れる。
世津は熱いほどよいと言い、香央は少し冷ましてから入れる。二つを並べると、重さも音も違った。
寒波の夜、金属の湯たんぽの栓から水が滲んだ。布団を濡らすほどではないが、もう使わないほうがよい。
「これ、四十年使ってるのに」
祖母は残念そうだった。
翌日、新しいものを買いに行った。売り場には樹脂製しかなく、香央と同じ色違いを選ぶ。
その夜、二つへ同じ温度の湯を入れた。世津は布団の中で触り、「軽すぎる」と言う。
古い金属のほうは捨てず、湯を入れずに足元へ置いた。重みだけでも落ち着くらしい。
香央は不思議だったが、自分も祖母の薬缶の沸く音がないと眠る支度をした気がしなかった。
春、湯たんぽを片づける。樹脂製は乾かし、古い金属製は布で磨いた。
へこみや錆の跡が幾つもある。世津が若い頃、子どもたちの布団を順番に温めたものだという。
次の冬まで押入れへしまう前、香央は二つを日に当てた。
金属は冷たく、樹脂は少し温かい。それでも古い湯たんぽを持ち上げると、湯気と布団と、祖母の使う石鹸の匂いがまだ内側に残っている気がした。
次の冬、新しい湯たんぽにも細かな傷がついた。世津は金属製を足元に置き、樹脂製を腰へ当てる。香央も同じように二つ欲しいと言い出したが、祖母は「まだ若い」と笑う。停電した夜、暖房が止まり、二人は湯たんぽを持って同じ布団へ入った。古い金属には湯がなくても、足の間で重石のように落ち着いた。薬缶の残り湯で茶を淹れる。暗い部屋に番茶の香りが広がり、二人分の体温が四十年分のへこみへゆっくり馴染んだ。
停電が直っても、二人は茶を飲み終えるまで暖房をつけなかった。古い金属を間に置き、暗さの残りを味わう。湯たんぽのへこみには、番茶の湯気が薄く曇っていた。