二十番を消す者
冬城暁は二十番扉の前で袖を上げ、数字の右半分だけを拭った。発光塗料の0が黒い布へ移り、扉に残ったのは「2」。十七番を奪い合っていた椿原理世、諸星翔、蓬奈緒が同時に振り返る。
「何をしてる!」
暁は二番になった扉へ背を預けた。
壁の規則は一つ。
――終了時、最も小さい番号を示す扉の前にいる者を勝者とする。
並んでいた数字は十七、十八、十九、二十。三人は当然、十七が最小だと考えた。理世が取っ手を握り、翔が肩を押し込み、奈緒が二人の足を払う。暁が二十へ向かったとき、誰も止めなかった。最大の番号を選んだ敗者にしか見えなかったからだ。
暁は説明中、進行役が扉へ触れた指に白い粉を付けたことを見ていた。数字は刻印でも金属札でもない。暗闇で光らせるため、その場で塗った水性の発光塗料だった。番号を毎回変える撮影設備だから、消せる必要がある。
規則が判定するのは「最初に書かれていた番号」ではなく、終了時に扉が示す番号だ。ならば二十の0を消せば、二になる。十七よりも小さい。
翔が二番へ走ろうとするが、各自の足輪は選んだ扉の半径から出られない。開始時に二十を選んだ暁だけが、その前に残れる。三人が争っている間に選択は固定されていた。
「器物損壊だ!」
理世が叫ぶ。
「塗料を布へ移しただけ。扉は傷つけていない」
暁は袖の0を見せる。円は崩れているが、元へ塗り直すこともできる。規則には数字へ触れるなとも、書き換えるなともない。
主催者は最小の十七を巡る乱闘を撮りたかった。だから二十を安全な捨て札にし、誰も近寄らないと決めつけた。最大の数字ほど、削る余地が大きいことを考えなかった。
残りゼロ。
読み取り機が順に走査する。
〈十七、十八、十九、二。最小値、二〉
三人の手が止まる。暁の首輪だけが開いた。
二番になった扉の錠が緑へ変わる。
「二十を選んだんじゃない」
暁は取っ手を下げた。
「二を残せる扉を選んだんだ」
袖に消えた0を連れて、彼は勝者の通路へ踏み込んだ。