五つ星の案内人
セキュリティ記事を書く二十八歳の蓬莱谷遼真は、レビュー不能と噂されるアプリ「返礼」を入手した。起動すると、深夜の部屋で一人だけ行う《送り客》の手順が表示される。鏡へ水を一滴落とし、連絡先から忘れたい相手を選ぶと、その相手との縁を向こうへ送れるという。
儀式そのものは十五分で終わった。遼真が選んだのは、金を持ち逃げした元共同経営者だった。完了画面には、古い札の写真と一つの禁忌が出た。
《儀式完了後、「評価する」を押してはいけない》
かつて送り客へ礼札を渡すと、受け取った者が次の案内役にされた。評価ボタンはその礼札に当たるらしい。
遼真は記事のため、禁則違反時の通信先を確認したかった。プロキシを通し、画面録画を開始する。星を選ばなければ送信されないはずだと考え、〈評価する〉を一度だけ押した。
星が自動で五つ埋まった。
〈最高の案内をありがとうございました〉
〈案内役を端末所有者へ変更します〉
通信ログには、彼の全連絡先へ招待URLを送った形跡があった。送信済みメッセージは見当たらないのに、友人から次々と返信が来る。
〈このアプリ何?〉
〈お前の顔がアイコンになってる〉
〈送りたい相手を選べって出た〉
管理画面には、儀式を始めた利用者へ遼真の現在地が「案内所」として配信されていた。地図のピンは自宅へ重なり、営業時間は午前零時から日の出まで。問い合わせチャットへは、遼真が入力していない返信が自動で送られる。
〈鏡の前で待っていてください。私が迎えに行きます〉
遼真はアカウントを停止し、端末を初期化した。それでも招待数は増え続ける。誰かが儀式を完了するたび、彼の前面カメラが一秒だけ起動し、知らない部屋の鏡が映った。
午前三時、元共同経営者から久しぶりに電話が来た。
「お前を選んだ。これで終わりだよな」
通話の向こうで水滴が落ちた。遼真の部屋の鏡にも、内側から一滴の波紋が広がった。
翌朝、アプリストアから開発者向け通知が届いた。
〈あなたのアプリ「返礼」が公開されました〉
〈現在の利用者:1,284人〉
アイコンは遼真の顔だった。レビュー欄の最上段に、普段よく見る一文が表示されている。
〈開発者からの回答:次はあなたが迎えに行きます〉