五百万円の割れ物

宅配便の営業所で、鬼越坂竜也は割れた壺をカウンターへ並べた。

「五百万円の骨董品だ。お前らが壊した。今日中に全額払え」

受付担当が伝票を確認すると、内容品は〈雑貨・五千円〉、補償上限も通常扱いだった。箱には緩衝材がなく、壺は新聞紙一枚に包まれているだけだった。

鬼越坂は机を叩く。

「価値を勝手に決めるな。払わないなら、この女が荷物を投げたって動画を作って流すぞ。所長を土下座させろ」

待合椅子にいた、黒い作業着の巨漢が立った。大塔森仁史。腕に龍のような模様が見えたが、それは引っ越し会社の安全大会で付けた転写シールだった。

「その箱、営業所へ入る前にあなたが落としましたね」

鬼越坂が睨む。

「証拠は?」

大塔森は自社トラックのドライブレコーダー映像を見せた。駐車場で鬼越坂が箱を地面へ叩きつけ、壊れた音を確認してから受付へ運ぶ姿が映っている。助手へ「運送事故にして五百万取る」と話す声も入っていた。

大塔森は引っ越し会社の社長で、古物商許可と美術品梱包の資格を持っていた。

「本当に五百万円なら、通常の段ボールへ裸で入れません。鑑定書はありますか」

鬼越坂が出した鑑定書を確認すると、写真の壺と模様が違う。番号は別の美術館所蔵品のものだった。

営業所長が入出庫映像を再生した。荷物はベルト上で一度も落下しておらず、受付時点ですでに箱の底から破片の音がしていた。受付担当は異音を記録欄へ残している。

鬼越坂は、動画は演出で、壺だけは本物だと言い張った。

大塔森が破片を一つ見る。

「量産品の窯印です。新品価格は三千円ほどでしょう。虚偽の価値と事故を申告して補償金を求めれば、クレームではなく詐欺の疑いを持たれます」

営業所は補償請求を拒否し、威迫発言と偽造鑑定書について警察へ相談した。鬼越坂が箱を持ち帰ろうとしたとき、警察官が到着する。

大塔森の映像、受付記録、偽鑑定書が三つの証拠袋へ分けられた。

伝票の申告価格五千円へ〈事故前破損・補償対象外〉の印が押された瞬間、五百万円を怒鳴って作ろうとした男には、三千円の壺と刑事相談の受付番号だけが残った。