今月は計らない
茉白は月末になると、同い年の友人たちの出来事をノートに書き出した。
昇進、転職、引っ越し、交際開始、資格取得。名前の横に矢印を引き、自分より先か後かを小さく記す。誰にも見せない順位表だった。最後に自分の一か月を書き、友人たちより少ないと、ページの下へ「来月は頑張る」と付け足した。
この習慣を始めたのは、二十三歳の誕生日だった。目標を見失わないための記録だったが、年を重ねるほど友人の欄が増えた。連絡を取るたび、嬉しい報告の裏でノートのどこへ書くかを考える。会っている最中にも順位をつける自分が嫌で、最近は誘いを断ることまであった。比べることで前へ進むはずが、誰かを好きでいる余裕を少しずつ削っていた。
八月の終わり、茉白はいつものノートを開いた。友人は新しい店を任され、同期は留学を決め、従妹は雑誌に載った。祝福したい気持ちは本物だった。それでも並べた瞬間、自分の一か月が「何もない」に変わる。
茉白にも出来事はあった。歯医者の予約を守った。枯れかけたバジルに毎朝水をやった。苦手な電話を一本かけた。けれど順位表の項目には入らない。
定規を当て、自分の欄まで線を引く。ペン先が紙に触れたところで、窓から風が入り、ノートの前のページがめくれた。七月の下には「もっと急ぐ」と書いてある。その前の六月は「遅れている」。五月も同じだった。
茉白は定規を机の引き出しへしまった。
友人の名前を消すのではなく、今月のページだけ線を引かない。代わりに、余白へ「バジル、新しい葉が二枚」と書いた。成果にするには小さすぎ、誰かと比べる方法も分からない事実だった。
「来月は頑張る」も書かなかった。来月の自分に宿題を渡さないまま、ノートを閉じる。
机の端では、バジルの葉が風に揺れていた。二枚が多いのか少ないのか、茉白には分からない。分からないので、数え直さずに水だけやった。受け皿に落ちた一滴を布巾で拭き、それ以上の意味は探さなかった。
八月は誰より先でも後でもなく、そこで終わった。