代わりではない席

洲崎結月が業務システム会社で引き継いだ大口顧客は、午前零時に新しい勤怠システムへ切り替わる予定だった。

翌日から産休に入る浅見弥琴は、移行率百パーセントの報告書を見せた。社員八千人分。残る作業は、切替ボタンを押すだけだ。

結月は報告書の人数が、顧客の最新名簿より三百人多いことに気づいた。弥琴は「退職者も履歴として移す契約だから」と説明したが、差分を開くと、退職者ではなく〈休職中〉〈海外出向中〉の社員が旧システム側で無効扱いになっている。移行済みには数えられているのに、新システムへログインする権限がない。

責任者は「今夜は使わない人たちだ。後で直せる」と切替を促した。だが育児休業から翌週戻る社員も、海外から給与を申請する社員もいる。百パーセントという数字の中に、使えない人が埋まっていた。

結月は切替を止め、状態区分を変換する表を修正した。後輩には「三百人を例外で片づけないで。三百通りじゃなく、同じ規則で外れた人たちだから」と伝え、休職、出向、長期研修の三群に分けて再移行した。

三群の再移行には、担当者が一人ずつ確認者を付けた。弥琴は自分が触ろうとするたび手を止め、「今日は結月の判断で進める」と顧客へ伝えた。結月はその言葉に背中を押されるより、判断を一人へ集めないための記録を残した。

切替は四十分遅れた。午前零時四十分、全員の権限が有効になり、顧客から承認が届いた。

弥琴は机の上の組織図を指した。自分の名前の下には、案件名が十個ぶら下がり、予備担当の欄はすべて空白だった。

社長は結月の肩を叩いた。

「明日から浅見さんの代わりだ。彼女みたいに全部分かる人になって」

結月は組織図をコピーし、各案件へ主担当、副担当、停止判断者を一人ずつ置いた。弥琴の席をそのまま埋めるのではなく、誰か一人が消えても止まらない形にする。

新しい運営表を提出すると、社長から〈この体制でチームリーダーを任せたい〉と返ってきた。

結月は〈代行〉と書かれた古い辞令を閉じ、新しい辞令の受諾を押した。