会議室Bは空いていない

朝海が会議室Bを予約し忘れたことに気づいたのは、説明会の四十分前だった。

市役所の子育て支援講座。参加者は十八人、講師はすでに移動中。予約表を見ると、B室には別部署の相談会が入っている。朝海は日付だけ確認し、確定ボタンを押していなかった。

空いているのは、机のない和室と、庁舎から徒歩七分の別館会議室。

朝海は頭の中で、自分への言葉を並べ始めた。

また確認できなかった。こんな簡単なこともできない。採用されたのが間違いだった。

失敗するたび、朝海は付箋にそれを書く。机の引き出しには、《遅い》《気が利かない》《向いていない》と書いた紙が何十枚もある。次に失敗しないため、と言いながら、読み返すのは仕事がつらい夜だけだった。

まず係長へ報告する。

別館へ変更し、庁舎入口に案内役を置くことになった。和室はベビーカーが入りにくいため使わない。朝海は講師と参加者へ変更連絡を送り、案内板を印刷した。四十分は、短くも長くもなかった。

作業の途中、いつもの黄色い付箋を取り、《会議室も取れない》と書く。

ペン先が「ない」の最後で止まった。

朝海はその一枚を丸めず、裏返した。

表の悪口が透ける紙の裏に、《予約確定メールを案件フォルダへ保存》と書き直す。引き出しにある古い付箋も出した。捨てる勇気まではなく、輪ゴムで束ね、備品棚の奥へ移した。今日、読み返せない場所であればよかった。

説明会は九分遅れで始まった。道に迷った参加者が二人いて、朝海は別館まで迎えに戻った。講師は急いで資料を並べ、係長は時間短縮の相談をしている。うまく収まったとは言えない。

それでも講座が始まると、朝海は入口の椅子に座った。

自分を責める文章を追加する代わりに、次回の予約期限を予定表へ入れる。

昼休みは二十分遅くなった。朝海は机で済ませず、食堂へ向かった。

引き出しには付箋の跡だけが四角く残っている。空いた場所へ、新しい悪口を貼らないまま、午後の時間が始まろうとしていた。朝海は空の引き出しを閉め、食堂の列に並んだ。