修理口の留守番電話
後悔販売機の保守員は、前面の投入口を使ってはいけない。作業中に生じた後悔は、背面の修理口へ入れる。紙は故障部品と同じ形に加工され、その場で交換に使われる。私生活の後悔を入れると部品番号が付かず、機械の内部に残る。
榛葉は夜間呼び出しで、郊外病院の一台を開けた。症状は「商品が出続ける」。電源を切っても、商品口から空の缶が十三秒おきに落ちた。看護師は足元の缶を集めながら、「重い後悔が詰まると、よくこうなります」と言った。
内部を調べると、返却ばねが折れていた。予備部品の箱は空。保守手順では、作業上の後悔を一件入れて代替ばねを作ることになっている。
榛葉は紙に〈予備部品を補充しなかった〉と書き、修理口へ入れた。機械は紙を平らな座金にした。原因が別だからだ。〈点検時に亀裂を見落とした〉は細いヒューズになった。必要なのは渦巻きばねだった。
看護師が「まだ出ます」と言う。空き缶が十三秒ごとに増え、廊下を転がっていく。
榛葉はこの病院へ、三年前にも来た。恋人が入院していた夜だ。呼び出しに応じて別の機械を直し、そのまま仕事へ戻った。彼女からの留守番電話は聞かず、容量を空けるため削除した。翌朝、病室は空だった。
それは作業上の後悔ではない。入れれば機械に残る。それでも榛葉は新しい紙に書いた。
〈修理を優先し、最後の留守番電話を聞かずに消した〉
背面へ差し込む。機械はしばらく止まり、紙を黒い渦巻きばねに変えた。部品番号の欄には何も刻まれていない。榛葉が取り付けると、空き缶は出なくなった。
前面へ回る。商品口に最後の一本だけ、白い缶が残っていた。開けても中身はなく、底に古い携帯電話の「1」のキーが落ちている。キーからは黒いばねが一本伸び、缶の縁を越え、閉じた修理口の向こうまで続いていた。榛葉が触れると、どこにも電池のない缶の中で、未再生を知らせる赤いランプが一度だけ点いた。
榛葉は白い缶を工具箱のいちばん奥へ入れた。車が段差を越えるたび、「1」のキーが一度だけ沈んだ。営業所へ着いたとき、黒いばねの先には部品番号ではなく、消した留守番電話の日付を刻んだ小さな赤い留め金が増えていた。