停電後の宅配ロッカー

ガス漏れで午後六時に閉鎖された商業施設で、停電後の宅配ロッカーから小包が見つかった。非常電源が復旧した七時、画面には「十八時四十三分投入」と表示されている。六時以降、建物の全扉は消防隊が監視し、誰も入っていない。箱には店舗金庫から消えた売上金が入っていた。

容疑者は施設長の沢渡、配送責任者の羽田野、保守技師の綾小路。沢渡は会計不正、羽田野は誤配損失、綾小路は設備費の横領を疑われていた。三人とも金を返しながら、閉鎖後に外部の誰かが届けたように見せる利益がある。ロッカー前のカメラは停電で止まり、映像から投入時刻を確かめることはできなかった。

システム監査員の月岡が選んだ手掛かりは三つだった。小包投入の取引番号は三一八だが、閉鎖前の十七時五十五分に行われた受取の番号は三二二で、番号は必ず発生順に増える。診断画面ではロッカー時計が標準時より五十四分進んでいる。そして時計設定を変更した履歴は、十七時二十分に綾小路の保守番号で一度だけ記録されていた。

沢渡は停電で番号が乱れたと言い、羽田野は予約取引なら若い番号が後から実行されると主張した。だが投入も受取もその場で発番され、停電後も不揮発メモリに順序が残る。綾小路は時計の進みを故障だと説明したが、設定履歴は自動補正ではなく手入力を示していた。羽田野は取引番号の仕様書を開き、三一八が三二二より先であることを確認した。沢渡は閉鎖前なら誰でも入れられたと反論したが、犯人を特定する三つ目の履歴は消えなかった。

月岡は表示時刻から五十四分を引いた。十八時四十三分は、実際には十七時四十九分。施設が閉鎖される十一分前であり、配送員も客もまだ館内にいた時間だった。

「取引番号は投入が十七時五十五分より前だったこと、五十四分の進みは表示だけが未来だったこと、保守履歴は時計を進めた綾小路さんを示します。あなたは十七時四十九分に箱を入れ、記録を十八時四十三分へ送った。荷物は停電後に届いていません。動かしたのは箱ではなく時計です。誰も入れない閉鎖後を配達時刻に見せ、侵入者という存在しない容疑者を作ったのです。停電は記録を壊していません。むしろ非常電源が、進められた時計を忠実に保存した。未来へ送られたのは荷物ではなく、一行の時刻表示だけでした」