八つの果実の開店日

遠矢芽衣は、洋菓子店「タルトレット」で、八種類の果実を載せた小さなタルトを一つ買った。

苺、葡萄、黄桃、キウイ、無花果、オレンジ、洋梨、赤いすぐり。季節も色も揃っていない。ショーケースの札には「余り果実のタルト」とあり、閉店前だけ作られる品だった。

芽衣は、商店街の空き店舗を週末だけ借りる申込書を持っている。趣味で作ってきた布小物を販売するためだ。けれど、作品の雰囲気が統一されていないことを気にしていた。花柄も幾何学柄も、落ち着いた色も派手な色もある。店を出すなら一つの世界観に絞るべきだと、出店案内には書かれている。

「これ、果物を減らしたほうがきれいでは」

芽衣が言うと、店主はタルトの縁を確かめた。

「減らすと、今日使い切れません」

美学ではなく、店の事情だった。店主は一切れ用の箱が切れているのを見ると、四号ケーキ用の箱を取り出した。四隅へ折り目を増やし、内側へ畳み、小さなタルトに合う大きさへ作り替える。印刷された店名は途中で折れ、「タルトレ」までしか見えなくなった。

それでも蓋はきちんと閉じた。

「箱まで半端ですね」

「今日の品には、これが合います」

店主は値札をショーケースから外し、裏面へ明日の仕込み数を書き始めた。今日の余りを売り切った瞬間、札の役目が次へ変わった。

芽衣は会計台の端で出店申込書を開いた。取扱商品の欄に、これまで「布小物」としか書けなかった。そこへ、刺繍のポーチ、帆布の鞄、プリント布の巾着、端切れのブローチと、一つずつ記入する。揃っていないのではなく、自分が作っているものの一覧だった。

屋号の欄には「八番目の窓」と書いた。開店希望日は、三週間後の土曜日。

申込書を封筒へ入れると、店主が会計印を押した紙の裏へ、商店街事務所の投函口の位置を描いてくれた。言葉はなく、矢印だけだった。

芽衣は店を出て、その矢印どおりに歩いた。封筒を投函すると、手元には八つの色が載ったタルトだけが残る。

どの果実から食べるかは、開店日まで決めなくてもよかった。全部を一つの台に載せて出す、と決めたのだから。