共有フォルダの所有者
学園祭実行委員会の部室で、鳳真琴は共有フォルダの所有権を移そうとしていた。
〈移行先のアカウントは組織外です〉
画面には同じ警告が出る。立花遥人は四月から実家の農園を継ぎ、千種葉月は都市政策の大学院へ進む。真琴だけが人材コンサルタント会社に就職する。
「後輩のアカウントに渡せば?」と遥人。
「容量制限で無理。五年分の企画書、屋台配置、事故報告、全部ある」
「事故報告まで思い出扱い?」
「会社なら資産って呼ぶ」
葉月が笑った。
「もう人事の言葉になってる」
「葉月も研究では人流データって呼ぶでしょ」
「遥人は?」
「畑では人手」
三人とも、人を別の名詞へ変える進路を選んでいた。
学園祭では、真琴が採用、遥人が会場、葉月が予算を担当した。面接では全員が「三百人をまとめた」と語った。誰が何をしたか尋ねられるたび、三人は共同作業を自分一人の成果へ切り分けた。
「真琴、あの会社で採用する側になるんだよな」
遥人が言う。
「最初は企業へ人を紹介する営業」
「畑に人を紹介してくれ。誰も来ない」
「条件が悪いって言われる」
「だから俺が戻る」
葉月は、研究計画書の入った封筒を閉じた。
「私は地方の人口流出を研究する。遥人みたいに戻る人を数字にする」
「俺、一件って数えられるのか」
「真琴の会社なら一人分の成約」
三人は笑ったが、笑い終える場所が見つからなかった。
所有権の移行は失敗し続ける。卒業日の零時、学生アカウントは停止される。
「必要なファイルだけ持っていこう」と真琴。
「必要って誰が決める?」と葉月。
「各自」
遥人は屋台の電源図、葉月は来場者アンケート、真琴はメンバー名簿を保存した。同じ五年間から、三人は別々の証拠を選んだ。
退室直前、真琴はフォルダ名を〈引継ぎ_最終〉へ変えた。遥人が〈本当の最終〉を足し、葉月が〈修正版〉と続けた。
零時になる。三人の画面が同時にログアウトした。
翌朝、後輩が開いたフォルダには、〈所有者:無効なユーザー〉と表示されていた。編集できない名簿の末尾で、三人の所属欄だけが空白のまま残っていた。