再試験は一人だけ

霜鳥瑞希がカンニングを疑われたのは、卒業認定試験の最後の科目だった。

机の中から解答一覧が見つかり、担当の楠瀬龍之介教諭は即座に答案を回収した。卒業生代表に選ばれていた瑞希が失格になれば、次点の優等生が代表になる。

三日後、審査会が開かれた。

楠瀬は、瑞希が試験前に一人で教室へ入ったと説明した。次点の生徒も、瑞希が机へ紙を隠すところを見たと証言する。

瑞希は否定だけを繰り返さなかった。

まず、昇降口の監視映像。試験前、瑞希は生徒会の仕事で体育館におり、教室棟へ入っていない。

次に、教室前のカメラ。入室したのは楠瀬と次点の生徒だった。二人は瑞希の机を確認し、何かを入れている。

楠瀬は、教材を配っただけだと言った。

瑞希は小さなボイスレコーダーを置いた。放送委員として卒業式の音響確認をするため、教卓のスピーカー付近で録音していたものだ。

『紙は机の奥へ。見つけたとき、驚いて泣けばいい』

楠瀬の声。

『これで私が卒業生代表ですね』

次点の生徒の声。

それでも楠瀬は、録音時刻が証明できないと食い下がった。

瑞希は最後の資料を出した。録音の背後に、校内放送の時報と、体育館で流していた卒業式リハーサルの曲が入っている。放送設備のログから、時刻は試験開始十二分前と確定した。曲の途中に入った校長の咳まで、当日の記録と一致していた。

審査委員長は長い沈黙のあと、瑞希の卒業認定と代表資格を回復すると告げた。楠瀬は自宅待機、次点の生徒は卒業認定を再審査。二人が関わった過去の採点も調査される。

次点の生徒が泣きながら言った。

「じゃあ、再試験を受ければいいんですか」

委員長は書類を閉じた。

「再試験を受けるのは、あなた一人です。霜鳥さんは、最初の試験ですでに合格しています」

卒業式の代表者名簿が画面に映る。楠瀬が消そうとした霜鳥瑞希の名が、最上段へ戻った。

確定ボタンが押された瞬間、やり直すことになったのは瑞希の人生ではなく、嘘で一位になろうとした者の試験だけだった。