処分の日に王獣が選んだ皿洗い

黎明獣アステラは、獅子の鬣と狼の尾を持つ王国最古の守護獣だった。

だが百年ぶりに目覚めて以来、国王にも王子にも懐かない。食事を拒み、触れようとする者へ牙をむくため、王太子は「役に立たぬ伝説」と処分を決めた。

公開処分の日、広場の檻へ槍兵が並ぶ。皿洗いのネアラは、最後の食事を運ぶ役に選ばれた。失敗して食われても惜しくない者を、という理由だった。

銀皿には豪華な肉が積まれている。アステラは見向きもしない。王太子が嘲笑う中、ネアラは皿を置かず、獣の口元を見つめた。

金の口輪がきつすぎる。宝石の飾りが唇へ食い込み、口を開けば裂けるため、食べられなかったのだ。鬣に隠れた顎は痩せ、乾いた血が固まっている。

「懐かないのではなく、ずっと痛かったのですね」

王太子は、王家の威厳を示す特注品だと言い張った。

ネアラは銀皿から肉を下げ、厨房から持ってきた温い骨汁を木椀へ移した。そして檻の前で自分の首飾りを外す。

「私も、いらない飾りを外します。あなたのも外していいですか」

アステラの金の瞳が彼女を映す。槍兵が震えるほど低い唸りが響いたが、ネアラは手を伸ばさず待った。

やがて黎明獣は檻際まで来て、口輪の留め金を彼女の指先へ押しつけた。

留め具には王太子の封印があり、鍵がない。ネアラは皿洗い用の細い串を差し込み、油を一滴垂らして錆を浮かせた。毎日焦げた鍋をこそげてきた指なら、固着した金具の癖が分かる。

かちり、と外れた。

口輪が落ちると、アステラは牙を見せた。誰もが逃げた。けれど獣はネアラを噛まず、木椀の骨汁をゆっくり舐める。彼女は柔らかく煮た肉を一切れずつ手渡し、裂けた唇へ薬を塗った。

満腹になる頃、黎明獣は檻を前足で押し開き、王太子を通り過ぎた。広場の中央でネアラの前に伏せ、腹をさらす。

太陽より大きな契約陣が王宮を覆った。古文書によれば、黎明獣に選ばれた者こそ王宮守護の最高責任者。処分を命じた王太子は継承権を停止され、皿洗いのネアラには誰も逆らえなくなった。

それでも彼女は最初に、アステラの口元をもう一度拭いた。

獣は満足そうに全身を寄せ、鬣ごと頭を膝へ預ける。朝日の色をした毛は焼きたての寝具より温かく、王国一つを守る巨体の重さが、彼女だけには甘えるように沈んだ。