勇者候補、全員起立

野々宮昴が最後の勇者候補として鑑定台へ上がると、白い板には何も映らなかった。

「能力なし。席を与える価値もない。荷物の横で立っていろ」

選定公が笑い、昴の椅子を従者に片づけさせた。

他の候補者たちは豪華な席に座っている。《剣神》《大魔導師》《竜騎王》。能力名が背もたれの上で輝き、誰が最上位か牽制し合っていた。

昴の視界にだけ、一行が浮かぶ。

《世界号令》

存在するすべてへ、一度だけ同じ命令を下す。

あまりに大げさで、使い道が分からない。攻撃しろと命じれば、味方まで動く。眠れと命じれば、自分も眠るかもしれない。

選定公が王へ報告する。

「有望株は十九名。最後の一人は廃棄区へ送ります」

昴は片づけられた椅子を見た。

元の世界でも、会議ではいつも末席だった。発言を求められず、資料だけ作り、決定した者たちに従う。それでも一つだけ知っている。誰かに立たせられるのと、自分で立つのは違う。

「では、鑑定の証明をします」

選定公が嘲る。

「何をする。そこに立っているだけではないか」

昴は大広間を見渡した。

玉座の王。座った勇者候補。壁際の騎士。眠る守護竜の像。鞘に収まった聖剣。地下で止まっている古代巨人。空の上でこの儀式を眺める神々。

そして、一度だけ命じた。

「全員、起立」

《世界号令》

最初に立ったのは、十九人の勇者候補だった。

自分の意思に反して椅子が後ろへ跳び、剣神も大魔導師も背筋を伸ばす。次に選定公、近衛、神官、王が立った。

それだけでは終わらない。

壁の聖剣が一斉に鞘から立ち上がる。守護竜の石像が翼を広げ、二本の脚で起立する。王城の地下では古代巨人が千年ぶりに身を起こし、城全体を持ち上げた。

窓の外で山脈が立つ。

森の木々が根を抜き、海では沈没船が水面へ起き上がる。雲が縦に伸び、そのさらに上で、神々の玉座が空になった。

天井へ新しい鑑定結果が焼きつく。

《命令到達数:測定不能》

《世界全域の服従を確認》

昴だけが、立ったまま何も変わらない。

命令を終えると、全員が動けるようになった。だが誰も座り直さなかった。王でさえ、玉座の前で姿勢を正している。

従者が慌てて昴の椅子を戻した。

彼はそれを見て、ゆっくり座る。

大広間でただ一人腰掛けた昴へ、十九人の勇者候補と国王と神々の視線が、一斉に向けられた。