勝者を作らない

烏丸結月は、自分の名を書いた。

厨川庸、阿井原露、真砂木航も、同じように自分へ一票を入れる。

「愚かな」

ガラスの向こうで、老いた管理人が笑った。「最多票を得た一人だけが後継管理者として解放され、残り三人は処刑される。自分へ入れても助からん」

それが今回の規則だった。

投票箱が閉じる。

烏丸結月、一票。

厨川庸、一票。

阿井原露、一票。

真砂木航、一票。

《最多得票者、四名》

《後継管理者一名を確定できません》

管理人の笑みが止まった。

結月は、最初からこの部屋を「処刑室」だと思っていなかった。壁には《後継候補保全区画》。四つの首輪にも、爆薬ではなく鎮静剤と生命維持端子が入っている。管理人は咳を隠し、制御卓の残り稼働時間を何度も見ていた。

このゲームの目的は、三人を殺すことではない。

施設を動かす次の一人を、必ず残すことだ。

「引き分けなら全員処刑だ!」

管理人が卓を叩く。

《全候補の喪失は後継計画に反します》

機械音声が答えた。

「あなたより、システムの方が目的に忠実みたいね」

結月は言う。

開始前、彼女は三人へ自分票を提案した。誰か一人へ二票が集まれば、その者だけが助かる。裏切る誘惑は強い。

だから結月は、首輪の小窓を見せた。《候補者死亡時、後継計画失敗》。主催者が最も恐れるのは、勝者がいないことだと説明した。

《再選抜のため、候補者保全を優先》

四つの首輪が同時に外れる。

《区画封鎖を解除します》

管理人が立ち上がる。「待て。次の選抜を行う!」

「次はない」

庸が制御卓の主電源を落とし、露が扉を押さえ、航が結月の隣へ立つ。四人は最初から、それぞれの役割まで決めていた。

管理人はガラス越しに結月を睨んだ。

「票を集めず、全員を従わせたのか」

開いた扉の前で、結月は首を振る。

「従わせていない。誰も勝者にならないことだけに、全員が賛成した」

管理人の目に、怒りより先に評価が浮かんだ。

「後継者に最も近いのは、お前だったか」

結月は答えず、三人と同時に部屋を出た。