十一時から十二時まで
土曜日の午前十時五十七分、予定表には、やることが七つ並んでいた。
掃除機。水回り。クリーニング受け取り。食材の買い出し。作り置き。運動。資格試験の勉強。
平日の夜に思いつくたび入力した予定だった。未来の土曜日は、いつも元気で時間があり、平日の私が残したものを全部回収してくれる。
実際の私は、部屋着のまま床へ座り、冷めたコーヒーを飲んでいた。九時に起きたのに、二時間近く何もしていない。動画を一本見て、洗濯機を回そうとして、洗剤が少ないことに気づき、そのまま座った。
予定表の通知が鳴る。「十一時 買い出し」。画面の文字は命令口調ではないのに、私は叱られた気がした。
外は晴れている。買い物日和で、洗濯日和で、散歩にも向いている。窓から入る光まで、何かを始めろと言っているようだった。
私は七つの予定を見直した。クリーニング店は明日も開いている。食材がなくても、冷凍うどんがある。掃除機をかけなくても、床は歩ける。試験は来月だが、今日一時間休んだから落ちるわけではない。
それでも予定を削除する指は重かった。消すと怠けた証拠になりそうで、翌週へ移す。すると翌週の土曜日が、今週より忙しくなった。
私は新しい予定を一つ作った。
十一時から十二時まで。
題名は「空白」。
保存すると、白い長方形が予定表へ入った。休憩でも昼寝でもない。何をしてもよく、何もしなくてもいい一時間。わざわざ予約しなければ休めないことが少し可笑しかった。
コーヒーを温め直さず、そのまま飲む。毛布を肩へかけ、窓際へ移動した。向かいの屋根に鳥が一羽止まり、すぐ飛んだ。スマートフォンは伏せた。
十一時二十三分、掃除機のことを考えた。十一時四十分、うどんに卵を入れようと思った。どちらも考えただけで、立たなかった。
十二時の通知が鳴る。部屋は何も変わっていない。七つの予定も残っている。
私は「空白」の予定だけを完了にした。何もしなかった一時間を、消えた時間ではなく、守れた予定として残す。
それから冷凍うどんを取り出した。土曜日を立て直すためではない。少し腹が減ったからだった。