午前零時の友達申請

 写真共有サービスの終了まで、あと二十二分だった。

 ひなたと冬馬は、ファミリーレストランの端の席で、三人用のアルバムを保存していた。三人目は冬馬の姉で、ひなたの親友だった澪。五年前に事故で亡くなってからも、アカウントだけは残っていた。

「全部落とせた?」

「たぶん」

「コメントも?」

「そのまま保存した」

 二人が頻繁に会うようになったのは、澪の葬儀のあとだった。命日に花を買い、誕生日に彼女の好きだった店へ行き、思い出せない記憶を補い合った。

 いつしか澪の話をしない日も増えた。仕事の愚痴で笑い、互いの引っ越しを手伝い、風邪の日に食料を届けた。

 ひなたは冬馬が好きだった。

 けれど言えなかった。澪がいなければ近づかなかった二人だ。恋人になれば、親友の不在を利用したようで、彼女の場所を奪う気がした。

「サービス終わったら、このグループも消える」

 冬馬が画面を見た。

「データは残るよ」

「俺たちは?」

「そのままでしょ」

「そのままって、命日だけ会う?」

「今までどおり」

「今までどおりが分からなくなった」

 店内の時計は二十三時四十八分。ドリンクバーの清掃が始まり、逃げ込める注文もなくなった。

「ひなた、俺と会うとき、姉ちゃんに許可取ってるみたいな顔する」

「そんなことない」

「映画に行った日も、帰りに澪の写真へ報告しただろ」

「大事なことだから」

「俺たちが楽しいと、姉ちゃんを忘れたことになる?」

「ならない」

「好きな人ができても?」

「ならないよ」

「それがひなただったら?」

 ひなたは保存ボタンを押し損ねた。

 画面には、三人で撮った最後の写真がある。真ん中の澪が二人の腕をつかみ、無理やり肩を寄せさせていた。

「澪の代わりにはなれない」

「なってほしいなんて言ってない」

「でも、私たちの始まりには澪がいる」

「始まりが誰かの死でも、今までの五年まで死んだ人のものじゃない」

 午前零時まで五分。

 冬馬は新しい写真共有アプリを開いた。友達一覧は空だった。

「このまま保存して終わる?」

「そのままがいい」

 ひなたは一度言い、首を振った。

「違う。そのまま残すのは澪とのアルバムだけ。私たちは、二人の続きを始めたい」

 零時、古いサービスの画面が白くなった。

 ひなたは保存済みのフォルダを確認し、澪の写真を消さずに閉じる。それから新しいアプリで冬馬の名前を検索した。

 表示された〈友達になる〉を押す。

 冬馬が承認すると、二人だけの空のアルバムが開いた。

 ひなたは最初の一枚として、テーブルに並んだ二つの空のグラスを撮った。澪の代わりではない場所に、二人の今日を保存した。