半分の死を二人で
水無瀬燈は、二つの杯の中身を大鉢へ合わせた。
透明な水と淡い紫の酒が混ざる。それを正確に二等分し、自分と妹の前へ戻した。
《二人は一杯ずつ飲め。十分後に生きていた者が勝者となる》
「兄さん、何を……」
妹の声が震える。
二杯のうち一つには致死量の毒が入っている。どちらかを選べば、一人だけが助かる。主催者はそう説明し、兄妹が互いへ安全な杯を譲る瞬間を待っていた。
「一人分の死を、二人で半分ずつ持つ」
燈は先に杯を空けた。妹も泣きながら飲む。
数分後、二人の指先は痺れ、視界が揺れた。それでも心臓は動いている。燈は妹の脈を数え、妹も燈の手首を離さなかった。どちらか一人だけを見送るための卓で、二人は互いの生存だけを確かめ続けた。
十分の時計がゼロになる。
『勝者、水無瀬燈、水無瀬鈴禾』
スピーカーの向こうで、主催者が初めて声を荒らげた。
「毒は確実に一人を殺す量だ!」
「だから分けた」
燈は卓の端に刻まれた小さな表示を指す。《毒薬一回分・成人一名致死量》。主催者は恐怖を煽るため、それをわざと見せていた。だが致死量とは、毒か無毒かを分ける魔法の線ではない。全量を一人へ入れるから、一人が死ぬ。
「半分でも死ぬ可能性はあった」
妹が苦しげに言う。
「ああ。賭けだった。でも、どちらかを選べば主催者の望みどおり確実に一人を失う」
燈は監視カメラを睨む。
このラウンドの目的は、毒の場所を当てさせることではない。兄妹のどちらが自分を優先したか、その映像を残すことだった。だから毒は一人分に厳密に調整され、二人同時に殺す余裕がなかった。
「あなたは一人の勝者が欲しかった。次のゲームに進ませる駒が必要だから」
燈は妹の手を握る。「なら、二人とも瀕死になれば、二人とも治療して進ませるしかない」
左右の扉が同時に開き、医療班が駆け込む。
主催者は沈黙した。
運ばれる直前、燈は空杯を重ねた。
二つの縁が、欠けることなく澄んだ一つの音を立てた。