卒業前日の校則違反
卒業式の前日、クラス全員で買い食いをした。
始まりは、黒板の隅に誰かが書いた一行だった。
『最後に肉まん食べよう』
放課後、三十八人で駅前のコンビニへ向かった。
肉まんは十五個しかなかった。ピザまん、あんまん、カレーまんを全部買っても足りない。
店員さんが笑いながら追加で蒸してくれた。
店の前へ三十八人は並べない。公園まで移動し、ベンチ、滑り台、鉄棒の周りへ散った。
担任には秘密のはずだった。
最初の一口を食べたところで、先生が現れた。
「校則違反」
全員が固まった。
「校門から二百メートル以内、買い食い禁止。お前たち、ここ百八十メートルだぞ」
誰かが小さく「測ったんだ」と言った。
先生はコンビニの袋を持っていた。
中から缶の炭酸飲料を一本出す。
「現行犯が三十九人になったので、反省会」
笑いが起きた。
先生は公園の真ん中へ立った。
一人ずつ、三年間で反省していることを言うルールになった。
遅刻。居眠り。提出忘れ。文化祭で教室の鍵をなくしたこと。体育祭で借り物競走の札を改ざんしたこと。
笑いながら話していたのに、最後のほうは声が震えた。
私は、友達の相談を聞いたふりをして、自分の話ばかりしていたことを言った。
隣の友達が「今気づいた?」と笑った。
友達は、卒業後も毎日会えるような顔をしていたことを反省した。
誰かが泣き始めた。
肉まんの湯気で顔を隠し、次々に泣いた。
担任の番になった。
先生は炭酸の缶を開けた。
「お前たちが卒業するのを、楽しみにしているふりをしたこと」
公園が静かになった。
「正直、寂しい。だが残れとは言えない。だから最後まで校則を守らせるふりをした」
先生は一口飲み、炭酸にむせた。
全員で笑った。
追加の肉まんが届くころ、空は暗くなっていた。
三十八人で一つずつ持ち、先生の分だけ残らなかった。
私は自分の肉まんを半分に割った。
先生へ渡すと、ほかの生徒も少しずつ差し出した。
先生の紙袋には、違う味の欠片が山になった。
「食べにくい」
「反省してください」
最後にクラス写真を撮った。
制服、肉まん、缶の炭酸。卒業アルバムには載せられない写真だった。
翌日の式で、私たちはきちんとした顔で証書を受け取った。
担任は泣かなかった。
退場するとき、先生が小さく言った。
「昨日の反省会、校外だから無効な」
私たちは笑いながら体育館を出た。
最後の校則違反は、学校生活の終わりではなく、同じ制服で笑える時間の終わりを教えてくれた。