卒業生代表
創立記念同窓会の壇上で、土岐沢修平は寄付者用の金色リボンを胸に付けていた。
「学校を支えるのは、成功した卒業生の責任だからね」
修平は折笠叶真を見つけると、青い一般参加者リボンを指でつまんだ。
「まだ奨学金暮らし? 昔も給食費を待ってもらってたよな」
叶真は濃い緑のスーツを着ていた。細かった少年は肩の線が整い、穏やかな顔には、自分の立つ場所を疑わない落ち着きがある。
「今は自分で払ってるよ」
「そりゃ大人だからな。俺は今年、学校へ百万円寄付した。名前も玄関に残る」
修平は周囲へ金色リボンを見せて歩いた。叶真が昼休みに図書室へ逃げていたことや、制服が一着しかなかったことを笑った昔話まで、成功談の前置きに使った。
式典が始まり、校長が深刻な表情で壇上に立つ。老朽化と生徒数減少で、学校は閉校寸前だった。しかし卒業生の支援により、校舎改修と奨学制度の継続が決まったという。
修平は立ち上がりかけた。
「最大の支援者をご紹介します。医療情報企業ルクス・ケア創業者、折笠叶真さんです」
会場が叶真を振り返る。
叶真は大学在学中に、希少疾患の患者を病院へつなぐサービスを開発し、世界展開した。会社は上場し、彼の保有資産は千億円規模。経済誌の表紙に載った端正な顔は、校長が掲げた写真と同じだった。
叶真が寄付したのは、校舎の全面改修費、今後二十年分の奨学基金、そして給食費を理由に誰も肩身の狭い思いをしないための無償化資金だった。総額は五十億円。
修平は金色リボンを押さえた。
「でも俺も寄付者だ。代表挨拶は幹事の俺が――」
校長は申し訳なさそうに首を振った。
「卒業生代表は折笠さんです。土岐沢さんの寄付は、申込額百万円のうち入金が一万円でしたので、一般芳名録へ訂正しました」
係員が修平の金色リボンを外し、青いものへ替える。
玄関の幕が開き、新しい銘板が現れた。〈折笠未来奨学基金――経済的事情で、誰も席を失わない学校へ〉。
叶真の名前が校舎に刻まれる。給食費を笑った少年と、学校の未来を払った大人の差は、誰の目にも動かせない形になった。