名前を流す夜

発売用データの確定まで五時間。スタッフロールから、外注会社の二十七人が消えていた。

 映像は止まらず流れる。社名だけがあり、その下に置かれるはずの名前が空白だった。制作管理の鴇巣緑朗へ、「朝までに戻して」と依頼が来た。

 クレジットは各部署の表を一つにまとめ、マスターへ書き出す。緑朗が元表を開くと、二十七人の名前は残っていた。ただし全員の契約終了日が、昨日になっている。

「退職者を除くフィルターに引っかかったんだ」

 担当者は条件を外そうとした。緑朗は止めた。条件を全部外せば、試作だけ参加し、掲載辞退を申し出た人や、契約上名前を出せない人まで復活する。

 消えた人々の欄には「掲載可」の印がある。問題は、在籍中かどうかと掲載可否を同じ条件で扱っていたことだった。

 緑朗はフィルターを、発売日の在籍ではなく、作品への参加と掲載同意の二つで判定するよう変えた。そして差分を出し、増えた名前と減った名前を一行ずつ確認した。二十七人は戻ったが、さらに二人増えている。昨年亡くなった背景画家と、会社を畳んだ翻訳者だった。どちらも掲載同意が残っていた。

「この二人も載せますか」

 若い進行が声を落とす。

「載せるための印です。契約が終わったことと、仕事がなかったことは同じじゃない」

 午前三時、スタッフロールを最初から流した。二十七人の名前が、町の背景音楽に乗って上へ進む。亡くなった画家の名も、翻訳者の名も、ほかと同じ速さだった。

 緑朗は最後まで見た。末尾の権利表記が出る前に画面を閉じれば、名前の途中で文字化けする不具合が過去にあったからだ。今回は一人も欠けず、最後の一行まで流れた。

 完成版が確定し、室内の灯りが明るくなる。誰かがコンビニの朝食を配り始めた。

 緑朗の受信箱には、発売後更新分の依頼が届いていた。追加章には、百四十三人が参加する。

 彼は二十七人の戻った表を保存し、次の空白行へ、まだ会ったことのない人々の名前を受け取る準備を始めた。