四つの光点
祝部眞砂は、山頂観測所で望遠鏡を動かすだけの人だと言われていた。
博士号はなく、夜ごとの画像を整え、ノイズを除き、研究員へ渡す技術員。雲の薄さや鏡面の温度差まで記録し、画像が何を写さなかったかも残すのが仕事だった。
鏑木プロジェクト長は、会議で彼女を紹介しなかった。
「観測の意味を考えるのは研究者の仕事だ。眞砂さんはボタンを押し間違えなければいい」
ある夜、眞砂は小惑星探索画像の隅に、四つの弱い光点を見つけた。
同じ星空を時間をずらして撮った四枚。光点だけが、わずかに一直線へ移動している。センサー上の同じ位置ではなく、星を基準にした同じ軌道上だった。
鏑木へ報告すると、センサーの傷だと言われた。
「傷なら星と一緒に動きません」
「解析を知らない人間ほど、発見した気になる」
鏑木は画像を欠測扱いにし、再撮影を命じ、原本を自動補正で上書きするよう指示した。眞砂は観測規程に従い、補正前の画像を別領域へ保存した。
眞砂は原本を消さず、規程どおり国際観測網へ候補報告を送った。発見を主張するのではなく、別地点での確認を依頼する正式な手順だった。候補が誤りなら、報告者の名だけが記録に残る。それでも彼女は送信した。
二時間後、南半球の観測所から返信が来た。
同じ天体を捉えた。移動速度が速く、既知の小惑星一覧にはない。さらに東欧の観測所も、雲間から同じ移動を確認した。
鏑木は自分の研究チーム名で追加報告を出そうとした。
しかし国際観測網には、最初の報告時刻と送信者が自動記録されている。
軌道計算が始まる。
天体は地球へ衝突しないが、月より内側を通過する。見逃せば二度と同じ条件では観測できない、極めて小さな地球近傍天体だった。
海外の観測所から共同確認が次々に届く。
鏑木の端末には、訂正を求める連絡が並んだ。
「技術員の名前では正式発見にならない」
彼が言った瞬間、中央画面が更新された。
国際小惑星センターの速報が公開されたのだ。
仮符号の下に、最初の観測者として一人の名が表示される。
《発見者:祝部眞砂》