四分速い美術館

午後四時五十分、市立美術館の修復室で館長の御陵司鋭が死んでいるのが見つかった。胸像で殴られ、床の振動警報は「十六時四十四分」に大きな衝撃を記録していた。警備側は、その一秒を犯行時刻と断定した。

容疑者は案内主任の富小路杏、警備責任者の真砂井昇、監視設備業者の千種川岳。四時四十四分、三人は中央ホールの公開解説にそろって映っていた。富小路は作品を説明し、真砂井は客列を整理し、千種川は機器紹介をしている。修復室までは片道二分。誰にも修復室で犯行を行う時間がない。

御陵司はその日、富小路の経歴詐称を調べ、真砂井の警備契約を見直し、千種川には監視設備の過大請求を返金するよう迫った。公開解説は四時半に始まったが、千種川だけは「配線確認」を理由に四時四十二分から壇上へ加わっていた。

確認できた手掛かりは三つだけだった。第一に、修復室カメラの映像では表示時刻四時四十四分に、市庁舎の鐘が四回鳴っていた。その鐘は毎時四十分に鳴る。第二に、ネットワークへ自動同期する扉記録は、四時三十九分五十二秒に千種川の作業カードが修復室へ入ったと示した。第三に、公開解説の正確な配信映像では四時四十分、富小路と真砂井は映っているが、千種川の席だけが空いていた。

振動警報と修復室カメラは同じ古い制御箱の時計を使い、実時刻より四分進んでいた。表示の四時四十四分は、本当は四時四十分である。千種川は二分後に中央ホールへ戻り、四時四十四分には確かに人前へ立っていた。

「三人の四時四十四分のアリバイは崩れません」私は二つの時刻表示を並べた。「崩れるのは警報時計の方です。市庁舎の鐘は表示より四分早く聞こえ、同期された扉記録は四時三十九分五十二秒に千種川さんの入室を残し、配信映像でも四時四十分だけ彼の席が空いている。犯行は表示上の四時四十四分、実際の四時四十分。あなたは四分速い時計を整備し、そのずれをアリバイとして利用したのです。正しかったのは全員の居場所で、間違っていたのは一台の時計だけでした」