回る薬瓶塔
薬屋『青蛙堂』には四百本の薬瓶があった。
壁の棚は三重。奥の瓶を取るには手前を全部どける。客が三人並べば、主人は処方より瓶探しに時間を使った。
「店が狭いのは貧乏だからだ」
主人は紫苑の改善案を笑った。
紫苑が持ち込んだのは、中心に軸を通した円形棚だった。瓶を輪の外側へ並べ、手で押すと棚全体が回る。奥という場所がなく、店員は同じ位置に立ったまま四百本へ手が届く。
最初の客は、旅立ちを急ぐ冒険者三十人だった。傷薬、毒消し、眠気止めを一人ずつ違う数で注文する。
主人が青ざめる。旧棚なら一刻はかかる量だ。
紫苑は処方票を読み、棚を半回転させる。傷薬を六本。さらに四分の一回して毒消し。瓶を戻せば、同じ区画が次の店員の前へ来る。
三十人分が十二分で揃った。
紫苑は床に白墨を付け、旧棚を使った主人の歩数と比べた。主人は一注文で百二十歩、梯子を三回。円形棚では十四歩、梯子ゼロ。腰を押さえていた主人が、最後まで一度も屈まなかった。
瓶を取った場所は歯抜けになるため、補充が必要な区画も回すだけで見える。棚の裏へ隠れた売れ残りがなく、期限切れ寸前の薬瓶七本まで見つかった。捨てる前に診療所へ回せる。
冒険者たちは待ち時間が短くなった分、追加で防虫薬と包帯を買った。売上は前回の同人数より三割増えていた。
数え直しは一度。間違いはゼロ。客たちは予定していた出発鐘より二つ早く店を出た。
次に主人自身が使う。腰を屈めず、梯子にも登らず、珍しい赤斑薬を十秒で取り出した。瓶同士がぶつからないよう区画が浅く仕切られ、回しても液面は揺れるだけだった。
床に置いていた予備箱まで円形棚の下段へ入り、店内に客二人分の待ち場所が生まれた。外の列が中へ収まる。
その様子を見ていた薬師組合長が、十二分の記録と四百本の収容数を確認した。
「一台で壁棚三面分か」
主人が値段を尋ねる前に、組合長は注文書を広げる。
「加盟店六十二軒へ一台ずつ。中央病院には大型を五台」
そして紫苑の名を契約欄へ書いた。
「設計と配置は君に任せる。王都薬業組合の収納技師として採用する」
円形棚が静かに回り、次の注文の瓶を正面へ運んだ。