夏休みを提出する日

九月一日、夏休みの写真日記を提出できなかった。

白いページが十二枚。海にも祭りにも旅行にも行かなかった。父が足を怪我し、家の食堂を手伝うだけで休みが終わった。朝は仕込み、昼は皿洗い、夜は翌日の宿題。写真を撮るような場面は一つもないと思っていた。

教室では、みんなが日記を見せ合っていた。水族館、花火、祖父母の家、部活の合宿。私は鞄の底から出せずにいた。

「忘れたの?」

隣の針生こよみが聞く。

「書いてない」

「一枚も?」

頷くと、こよみは自分のスマートフォンを開いた。八月二十一日の写真を見せる。

学校の自習教室。机に突っ伏して寝ている私。その頭には、誰かが消しゴムの箱で作った小さな王冠が載っている。周りにはこよみと、同じ班の三人が笑って写っていた。

その日は店の昼休みに二時間だけ学校へ行き、宿題をした。眠ってしまったことは覚えている。起きたとき、みんなは何も言わなかった。

「送るから、これ貼れば」

「寝てるだけじゃん」

「夏休みの一日でしょ」

写真の奥には、誰もいない教室の黒板が映っている。日付は八月二十一日。私の机の上には英語の問題集と、店から持ってきた紙袋。こよみが買ってくれた缶ジュースもある。

私はその写真を印刷して、最初のページへ貼った。

題名を書く。

『二時間の夏休み』

文章はすぐに埋まった。午前中に玉ねぎを三十個切ったこと。教室の冷房が涼しかったこと。こよみが数学を教えてくれたこと。眠っている間に王冠を載せられたこと。帰ったあと、父が片足で厨房に立とうとして母に叱られたこと。

書き始めると、次のページにも写真がなくても書ける日があった。初めて餃子をきれいに包めた日。常連客からアイスをもらった日。閉店後、家族三人で床に座って麦茶を飲んだ日。

十二枚全部は埋まらなかった。それでも先生に出すと、翌日、最後のページに赤字があった。

『空白も、この夏の形です。』

放課後、こよみに日記を見せた。

「写真、ありがとう」

「王冠、似合ってたよ」

「起こしてよ」

笑いながら、私たちは八月二十一日のページをもう一度見た。

何もなかったと思っていた夏休みは、ちゃんとそこに写っていた。