夜明けの熱影
午前四時、山間の太陽光発電所で、サーマルカメラが外周柵の内側に熱影を捉えた。
人のような形が、変電設備の裏で動かない。
警備員の国見柊子は、巡回車で最短の門へ向かわなかった。そこから入ると、高圧設備の線の保守区画を横切る。侵入者を追うにしても、救助するにしても、暗闇で近道を選ぶ場所ではない。
現着確認の前に、国見は出入りの記録を照合した。深夜作業の保守員が一人、退場していない。会社へ電話すると、連絡がつかず、作業終了の報告もないという。
同僚は「倒れているなら早く入ろう」と言った。国見は外周柵越しに呼びかけ、熱影の右手がわずかに動くのを見た。
「生存反応あり。救急を要請します。設備側の責任者も呼んでください」
南門から指定通路を使い、二人で近づく。保守員は工具箱にもたれ、意識が薄かった。無線機は落下して電池が外れ、足首を痛めて動けなくなっている。すぐ抱え上げれば最短だが、倒れている場所の脇には開放された点検扉があり、内部の電気が流れる部分へ腕が届く距離だった。
国見は人より先に工具をどけ、点検扉へ近づかない線をライトで示した。設備責任者が安全を確認するまで、保守員をその場で保温し、水を無理に飲ませない。
救急隊には北門ではなく南門を指定し、発電所内の曲がり角ごとに警備員を立たせた。救急車の高さでは、普段の巡回路に張られた仮設ケーブルをくぐれないことも先に伝えた。
保守員は担架で運ばれ、意識を取り戻した時、「携帯だけでも取ろうとして、扉の方へ手を伸ばした」と話した。国見が工具を先に退けなければ、救助する側まで同じ場所へ踏み込んでいた。
東の山から日が昇り、黒かったパネルが一斉に光を返した。
熱影は画面から消えたが、国見はカメラ映像と指定通路をもう一度照合し、夜間作業者の退場確認を電話ではなくゲートで行う手順へ変えた。
交代員が到着した直後、東側の外周柵で新しい警報が鳴った。
今度の熱影は四本足だった。
国見は笑わず、巡回車の鍵を戻さないまま、次の区画番号を無線で復唱した。