夜明け前のレシート

 瑞穂が会計を終えたのは午前四時五十八分だった。

 レシートには、牛乳、食パン、洗剤、単三電池、バナナと並んでいる。どれも今すぐ必要なものではない。眠れない部屋を出るため、思いつくままかごへ入れたものだった。

 同居していた友人が引っ越して三日目。

 二人分あったマグカップは一つになり、洗面台の歯ブラシも一本になった。仲違いではない。転職に伴う引っ越しで、送別会もした。だから寂しさを大げさに扱う理由が見つからず、瑞穂は誰にも言わなかった。

 コンビニの照明は、夜明け前でも変わらない。

 冷蔵ケースのモーターが低く回り、コーヒーマシンの内部で洗浄水が巡る。レジの後ろでは、店員がホットスナックの札を新しい日付へ替えていた。

 昨日の日付を外す。

 今日の日付を差し込む。

 小さな透明板が、かち、と鳴る。

 自動ドアが開き、新聞の束を抱えた人が入ってきた。ビニール紐がこすれ、紙の匂いが一瞬だけ店内へ広がる。店員が無言で受け取り、床へ置く。

 夜の店に、朝の紙が積まれた。

 瑞穂はレシートを見た。

 牛乳は冷蔵庫へ入れる。

 食パンは朝に焼ける。

 洗剤は週末まで使える。

 電池は止まった壁時計へ入れる。

 バナナは黒くなる前に食べる。

 買ったもののすべてに、数時間先か数日先の用事がついていた。

 店を出ると、東の空が薄い灰色になっていた。始発前の道路を、自転車が一台通り過ぎる。チェーンが規則正しく回り、赤い後ろ灯が点滅した。

 点いて、消える。

 点いて、消える。

 瑞穂はレシートを丸めず、財布へ折って入れた。

 部屋に戻り、まず牛乳を冷蔵庫へ入れる。次に単三電池を袋から出し、止まっていた壁時計の裏蓋を開けた。古い電池を抜き、新しいものへ替える。

 秒針が動き始める。

 かち、かち、かち。

 静かな部屋へ、時間が戻ってきた。

 友人のいない暮らしに慣れたわけではない。今夜の寂しさが、朝と一緒に消えたわけでもない。

 それでも、牛乳は冷えていき、時計は進み、食パンは棚で朝を待っている。

 瑞穂はカーテンを少し開けた。

 夜明けまであとわずかだった。そこまでなら、一人で見届けられそうだった。