孤独を食べる王に観客席を
「孤独王は空きパーティー枠一つにつき防御十倍」
「ソロなら五枠空き。防御十万倍だぞ」
「久住灯、さすがに視聴者は仲間判定されない」
久住灯は《無人城》の玉座へ向かいながら、流れる三つのコメントを読んだ。
孤独王ソリタスは、挑戦者のパーティーに空席があるほど強くなる。六人編成なら普通のボス、五人なら十倍、ひとりなら十万倍。しかも城へ入った後の加入は不可。ソロ配信者を嘲るために作られたような仕様だった。
灯のパーティー欄には、自分の名前しかない。
だがその下には、固有スキル《観客席》の小さなボタンがある。配信を見ている者へ、一度だけ“戦闘を見届ける席”を渡す能力。攻撃も支援もできないため、ファンサービス以外に使い道はないとされてきた。
玉座で、黒い王が笑う。
五つの空席が鎖となって胸へ巻きつき、防御倍率《×100,000》が表示された。灯の短剣は触れる前に砕け、王の影が城を覆う。
「やっぱり通らない」
「観客席はパーティーじゃないはず」
「でも説明文、“席を空席として扱わない”って……」
灯は短剣の柄を捨てた。
そして《観客席》を開き、現在の視聴者全員へ参加証を送る。
一度だけ、承認。
城の暗闇に、無数の座席が灯った。日本語だけでなく、読めない文字の名前、数字だけの名、初配信から毎回来ていた名が、遠い星のように並ぶ。灯は振り返らない。それでも背中側が、もう空洞ではないと分かった。
姿はない。声もない。ただ、百万人を超える名前が一席ずつ浮かび、五つしかなかったパーティーの空席を外側から埋めていく。
防御倍率が十万、千、十、一へ落ちる。
それでも王は立っていた。だが孤独を糧にする核は、空席が一つもない世界を理解できない。胸の鎖がほどけ、黒い王冠が静かに割れた。
「攻撃してない。孤独の条件を消した」
「観客は戦闘員じゃないから、参加人数は一のまま」
「でも空席はゼロ」
「ソロなのに、ひとりじゃない……」
灯はカメラへ向かって、小さく笑った。
配信画面の題名が、運営の公式認定と同時に書き換わる。
【世界初・単独討伐――百万人と埋めた、最後の空席】