学院そのものを測る日
アステル・ヴァンの能力欄には、長いあいだ意味のない表示が残っていた。
【分類不能:0】
炎も氷も治癒も使えない。彼女は教材を運び、壊れた測定具を別科へ届け、迷子の新入生を教室へ案内した。どの仕事も小さく、どの教師も「助かった」と言ったあと、名前を記録しなかった。
卒業前の大測定で、総合首席のルキアス・モーンが宣言した。
「分類できない者は、学院に何も残していない。最後にそれを証明しよう」
新設された学院監査水晶は、生徒個人ではなく学院全体の力の流れを映す装置だった。
起動した瞬間、講堂の各科を示す紋章が灯る。だが炎科の光は途中で途切れ、治癒科の輪は閉じず、結界科の線は互いに接続しない。優秀な者たちが力を出すほど、学院はばらばらに軋んだ。
アステルはいつものように動いた。炎科へ不足した触媒を渡し、治癒科へ予備布を運び、結界科の古い接続具を差し替える。命令はしない。ただ、必要な場所へ必要なものをつなぐ。
紋章が順に結ばれた。
ルキアスは杖を掲げ、自分が中心だと示そうとした。だが水晶から伸びた光は彼を通り過ぎる。教材庫、食堂、獣舎、図書塔、測定室。学院の隅々から集まった線は、すべてアステルの足元で交差した。
彼女の力は、分類できなかったのではない。どの分類にも橋を架けるため、ひとつへ閉じ込められなかったのだ。
過去の記録が講堂を巡った。破れた教材を直した手、別科の生徒同士を引き合わせた伝言、誰にも合わなかった道具を必要な教室へ回した判断。アステルは自分の力を足したのではなく、捨てられかけた力へ行き先を与えていた。
各科の首席たちは、自分の成果だと思っていた場面の端に彼女を見つける。名もない運搬係、案内役、調整役。中心に立たなかったからこそ、学院のどこへでも入れた。
ルキアスは自分の紋章へ魔力を注いだが、孤立した光は大きくなるだけで何にもつながらない。対してアステルが落ちた接続具を拾うと、弱い光同士が結ばれ、講堂全体が安定した。
監査水晶が最後の計算を終える。
【学院総合貢献度:100%】
講堂の中央に立っていたルキアスの台座が沈み、荷物運び用の低い台がせり上がった。そこに立つアステルへ、学院長が自ら徽章を差し出す。
表示は、学院が誰を中心に回っていたかを初めて正しく記した。
【学院・役職改定】
学院長代理:アステル・ヴァン
再評価待機:ルキアス・モーン