待機中の配信者
生方統也は、大学時代の恩師が遺した配信資料を整理していた。民俗学者の恩師は半年前に亡くなり、研究室も閉鎖される。
最後の箱から、予約配信の設定を記した紙が出た。題名は「待ち人送り」。村で死者を見送る際、誰か一人が灯りの前で朝まで待つ習俗だという。紙の末尾に太い字があった。
《通知に「配信者があなたを待っています」と出ても、待機予約を押してはいけない》
恩師の研究日誌には、待ち人送りで灯りの前に座った者は、翌年から写真の端にしか写らなくなるとあった。その夜、恩師の削除済みチャンネルから通知が来た。
【配信者があなたを待っています】
開始予定 23:59
統也は追悼用に設定された動画だと思った。研究資料を確認する責任もある。通知の「待機する」を一度だけ押した。
通知履歴では、恩師が亡くなった時刻から毎晩同じ案内が届いていたことになっている。統也の端末には今夜まで一度も表示されていなかった。予約画面の参加予定者は統也一人だった。開始時刻になると、黒い画面に研究室の机が映った。半年前、恩師が亡くなった場所だ。
椅子には誰もいない。机上のノートだけが自動で開き、ページに文字が浮かんだ。
《待つ者が来たので、送る者を決める》
コメント欄へ恩師のアカウントから投稿があった。
《生方君、遅かったね》
統也は配信を閉じた。アーカイブもチャンネルも再び消えた。研究室へ電話したが、番号は使われていなかった。
翌朝、友人たちから一斉にメッセージが来た。
《配信始めるの?》
《この日付、間違ってない?》
《縁起悪いから消せよ》
統也の個人チャンネルに、予約配信が作成されていた。
【生方統也 最後の配信】
開始予定:本日23:59
配信場所:葬祭会館
参加予定者:連絡先全員
キャンセルボタンを押すと、《あなたは配信者ではなく待機者です》と表示された。
家族グループにも自動通知が流れる。
【配信者があなたを待っています】
母が《誰が待ってるの?》と返信した瞬間、参加予定者が一人増えた。
統也のスマホは、まだ午前九時なのに喪中モードへ切り替わった。ロック画面の残り時間が減り始める。
《配信開始まで 14:59:59》
その下に、恩師の最後の言葉が表示された。
《今度は君が、待たせる番だ》