後処理が終わる前に
通信販売のコールセンターで、堂前誠士の夜勤は残り十分だった。
最後の客は、同じ定期便の代金が二度引かれたと言う。画面には一件しか契約がなく、同僚なら決済会社へ問い合わせて終えるところだった。
壁の表示ではAHTが赤くなっている。平均通話時間を超え、待ち呼も三件。班長は目で「短く」と合図した。
誠士は客の名前を漢字と読み仮名の両方で検索した。一件目は現在の名字、もう一件は結婚前の名字。住所も電話番号も同じだが、古い顧客番号が統合されず、定期便だけ二本走っていた。客が「箱は毎月一つしか来ない」と言ったため、倉庫側では重複に気づき、片方を出荷停止にしていた。しかし請求側にはその情報が戻っていない。
誠士は返金だけで閉じず、古い契約を停止し、二つの顧客番号をまとめた。ここで一方を削除すれば、過去の購入履歴や保証が消える。残す情報を確認してから統合した。
誠士は返金予定日だけを伝えて安心させず、次回発送の停止が画面に反映されたところまで客と確認した。二重請求は今日の損失だが、二重契約は来月も動く。目の前の一件を短く終えるほど、同じ客がまた電話をかけることになる。
通話は二十一分。AHTはさらに悪化した。
「数字、怒られませんか」
客が申し訳なさそうに言った。
「二重請求を来月も残すほうが怒られます」
電話を切ったあと、誠士はACWに入った。通話後の記録時間だ。待ち呼は五件に増え、班長が隣へ来た。
誠士は、倉庫の出荷停止が請求へ連携されない条件を示した。班長は時計を見てから、席へ戻れとは言わず、朝番の担当を呼んだ。同じ条件の契約を検索すると、重複候補が十二件出た。
退勤時刻を過ぎ、センターの照明が昼の明るさに切り替わる。
誠士がACWを終える前に、朝の広告放送が始まった。待ち呼は五件から十七件へ跳ね上がる。
彼は記録の最後に「今月分だけでなく次回分も停止確認」と書き、保存した。
すぐ次の客がつながる。
「箱は二つ届いたのに、請求は一つなんです」
誠士は数字を戻す前に、二つの顧客番号がないか検索した。