後夜祭のない花火
その学校には、後夜祭がなかった。
閉会式が終われば、すぐ片づけ。校庭で火を焚くことも、花火を上げることも禁止。三年生の風祭芙美は、それを毎年つまらないと思っていた。
最後の文化祭なのに、終わりは蛍光灯の下だった。
体育館からパイプ椅子を運び、教室の机を戻す。ステージ衣装はごみ袋へ入り、看板は折られた。昼間あれほど騒がしかった校舎が、午後七時にはほとんど空になる。
芙美は美術室で、装飾に使った金銀の紙を細かく切っていた。
「何してるの」
十河湊人が段ボールを抱えて入ってきた。
「分別」
「細かくする必要ある?」
「燃えるごみ」
「そのはさみ、工作用だけど」
「最後に使ってあげてる」
本当は捨てるのが嫌だった。
金色の星、銀色の月、赤いリボン。教室を飾っていた形のまま袋へ入れると、文化祭が壊されるように見えた。細かく切れば、ただの紙になる。
湊人は何も言わず、向かいへ座った。
二人ではさみを動かす。紙片が机へ積もる。
「後夜祭、やりたかった?」と湊人が訊く。
「花火とか」
「禁止」
「知ってる」
「校庭で踊るとか」
「それも禁止」
「何ならできるの」
「片づけ」
最後の銀紙を切り終えたとき、廊下から閉門の放送が流れた。
芙美は紙片を袋へ入れようとした。
その瞬間、開いた窓から強い風が入った。
机の上の金銀が、一斉に舞い上がった。
美術室の蛍光灯を受け、紙片が光る。上へ、横へ、二人の髪や制服へ。床へ落ちるまでの数秒、部屋いっぱいに小さな火花が散った。
芙美は声を上げて笑った。
湊人も、段ボールを盾にしながら笑っている。
「花火」
「室内で?」
「禁止されてない」
「清掃は?」
「後夜祭のあと」
二人はもう一度、床の紙片を両手ですくった。
窓を閉め、中央で同時に放る。
今度は風がなく、紙は高く上がらなかった。それでも金と銀が二人の頭上で混ざり、ゆっくり落ちた。
最後には、きちんと全部拾った。
美術室を出るころ、校舎の明かりは順番に消えていた。外には本物の花火も、音楽もない。
芙美の制服の襟に、銀色の小さな四角が一枚だけ残っていた。
湊人は気づいたが、取らなかった。
家へ着いて鏡を見たとき、芙美はそれを見つけた。
文化祭の終わりから持ち帰った、音のしない花火の欠片だった。