手を洗う前に

真白と維都は、三年間ずっと同じ体育委員だった。

最後の体育祭が終わる頃には、二人とも首から下げた笛まで泥色になっていた。雨上がりの障害リレーでコースへ飛び出し、転んだ選手を起こし、倒れたハードルを直したせいだ。競技に出た時間より、誰かの走路を空けるために走った時間の方が長かった。

閉会式のあと、校庭には片づけの生徒だけが残った。

「終わったね」

真白が得点板の数字を外しながら言った。

「まだテント三張り」

「そういう意味じゃなくて」

維都は返事をしなかった。卒業まで半年あるのに、二人で笛を吹く行事はもうない。

最後の支柱を運んだ時、クラスメイトが呼んだ。

「委員も写真入れ!」

集合写真の前列へ押し込まれる。真白は手を見る。泥と石灰が混じり、爪の中まで黒い。

「洗ってくる」

水道へ向かおうとすると、維都が手首をつかんだ。

「そのままでいい」

「写真だよ」

「今日の手なんだから」

維都も同じくらい汚れていた。

撮影係がカウントを始める。三、二、一。

直前、維都が手を上げた。真白も反射的に上げる。

泥だらけの掌がぶつかった瞬間、シャッターが切れた。湿った音は歓声に消えたが、二人の間にははっきり残った。三年間、競技開始の合図ばかり出してきた手が、最後に自分たちのためだけに鳴った。

写真には、全員が前を向く中、二人だけが互いを見て笑っていた。高く上げた手から泥が飛び、維都の頬と真白の白い鉢巻きに小さな点を作っている。

片づけが終わり、水道で手を洗った。黒い水が流れ、掌の線が戻る。

「卒業したら、会わなくなるかな」

真白が聞いた。

「体育委員では会わない」

「それ以外は?」

維都は濡れた手を振り、制服のポケットから細い油性ペンを出した。記録用紙に名前を書くためのものだ。

真白の鉢巻きの端へ、電話番号を書いた。

「泥より先に消えるかもしれないから、今日中に登録して」

真白は笑い、もう一度手を上げた。

今度のハイタッチは、洗ったばかりで小さな音しかしなかった。

何年後も残ったのは、泥ではなく写真だった。

そして写真を見るたび真白は思い出す。あの日、手を洗う前に終わったものと、洗ったあとに始まったものを。