敗北した隊長の帰還旗
臨時隊長のユースティアは、退却路を間違えた。
赤峡谷で魔竜に囲まれた時、東の橋を選んだ。橋は既に崩れており、剣士ガーデンは脚を負傷、術士リムセは魔力を使い切り、狙撃手ヤヒロは愛用の弩を谷へ落とした。
全員生還した。それでも初めて任された指揮で、誰一人無傷では帰せなかった。
峡谷へ入る前、三人は正式な隊長を決められず、最も慎重なユースティアへ章を渡した。彼女は水の残量も休憩時刻も間違えず、魔竜に遭うまでは全員を一度も傷つけなかった。だから最後の判断だけが、他のすべてを塗り潰して見えた。
東の橋がないと分かった時、三人はユースティアの命令どおり崖を登って生還した。それでも彼女には、従わせたから傷が増えたとしか思えなかった。
ギルドへ着くと、ガーデンは治療院へ、リムセは支部長室へ、ヤヒロは武具店へ向かった。
ユースティアは隊長章を外した。
前の騎士団では、一度の敗北で名前を記録から消された。今回も三人は、治療、報告、装備補充を済ませれば新しい隊長を選ぶはずだ。
彼女は共同倉庫から自分の荷だけを出し、帰還旗を畳む。
「判断を誤りました。次の依頼からは外れます」
松葉杖をついたガーデンが治療院から戻り、剣を旗の上へ置いた。
「脚が治るまで預ける。隊長以外には渡すな」
支部長室から出たリムセは、失敗報告書の指揮官欄に自分とヤヒロの署名も加えていた。
「判断を任せた責任は全員にある。勝手に一人分へ書き換えないで」
武具店から来たヤヒロは、新しい弩ではなく旗竿を買っていた。折れた帰還旗を結び直し、四人分の小さな房を先端へ付ける。
「弩は後でいい。こっちがないと帰る場所が分からない」
ユースティアは隊長章を机へ置いたままにする。
「また間違えたら、今度は生還できないかもしれない」
ガーデンは剣から手を離し、リムセは次の依頼票を四人分取る。ヤヒロは宿の窓へ帰還旗を掲げた。
「次は三人とも地図を見る。最後に決めるのは、またあんた」
夕暮れの通りで旗が揺れる。
敗北を隠す旗ではない。傷を負った三人が、それでも同じ部屋へ帰ってくるための旗だった。