日曜日を先に使う
冴子は金曜の夜、友人四人のグループチャットに〈日曜、空いてる人いる?〉と送った。
具体的な用事はなかった。誰かと昼を食べるか、買い物に付き合ってもらえたらと思っただけだ。今週は職場と家の往復で終わり、休日まで一人でいると、週そのものが薄くなる気がした。
送信から一時間、既読はゼロだった。
金曜の二十二時なら、飲みに行っている人も、残業している人も、眠っている人もいる。それでも冴子は、日曜の予定表へ鉛筆で書いたような薄い線を感じた。返事が来るかもしれないから、美容院も映画も予約しにくい。何も決まらないまま待つことだけが、予定になりかけていた。
テーブルには、パン屋で買った塩パンが二つと、冷めたポタージュがある。レシートには閉店前割引の赤い印。店員が「明日の朝なら軽く焼いてください」と言ったのを覚えている。紙袋には、小麦の匂いがまだ残っていた。
冴子は一つをそのままちぎった。表面の塩が少し湿り、バターの香りは弱くなっていた。
チャットを開くたび、送った文章が曖昧すぎた気がする。何がしたいか書かなければ返しにくい。けれど本当は、何でもよかったのだ。
〈ランチでもどう?〉
〈買い物付き合って〉
〈暇なので助けて〉
候補を打っては消した。最後の一文が、一番本音に近かった。
冷蔵庫からバターを出し、残った塩パンを半分に切る。日曜の朝に焼く分として、保存袋へ入れた。もう半分は今食べた。
それから近所の図書館の開館時間を調べた。日曜は十時から。帰りに新しい洗剤を買う。昼は決めなくていい。
友人の返事が来れば、途中から予定を変えてもいい。来なければ、図書館へ行かなくてもいい。日曜を誰かとの約束が入るまで凍らせておく必要はなかった。
冴子はカレンダーに「十時、起きていたら図書館」と入力した。「起きていたら」まで予定の名前にした。
チャットはまだ未読だった。けれど日曜日は、少しだけ自分のものに戻っていた。冴子は冷めたポタージュを飲み、返事より先に、残りの休日を使い始めた。