明日を命じない工房

王国最後の戦闘用人造人間は、古い玩具工房で眠っていた。

試作零号。百年前、都市を一夜で滅ぼすため造られたが、出撃前に戦争が終わった。胸の主核には工房主の家系だけが使える所有印があり、修理師ユーハンが最後の継承者だった。

王軍が工房を包囲した朝、将軍は命じた。

「所有印を継げ。零号を起動し、東国へ進軍させろ」

拒めば工房ごと焼くという。

ユーハンが主核へ手を触れると、灰色の瞳が開いた。

「継承者を確認。命令を受理します」

零号は少年の姿をしていた。壁には、先代たちが試した玩具の風車や木馬が並ぶ。その中央だけ、人を殺すための黒剣が立てかけられている。

将軍は所有印の登録針を差し出した。

「名を書けば、お前は英雄だ」

ユーハンは針を受け取り、主核の蓋を開けた。

内部には二つの回路がある。一つは自律心、もう一つは所有印。登録針で両者を結べば、零号は完全に従う。

彼は結ばず、所有回路だけを針で掻き切った。

警報が工房を満たす。

『主従接続消失。兵装制御を保証しません』

将軍が後ずさる。

「暴走するぞ!」

「保証しない、は暴走するって意味じゃない。自分で決めるって意味だ」

零号の黒剣が独りでに浮き、切っ先をユーハンへ向けた。古い最終命令が所有回路の残滓から流れ込んでいる。

「継承者。再接続を。あなたを殺害する可能性があります」

ユーハンは登録針を床へ置いた。

「接続しない。殺すかどうかも君が決めろ」

黒剣が振り下ろされる。

刃は彼の肩を外れ、主核から伸びていた最後の鎖線だけを断った。

零号の胸で所有印が砕ける。将軍が兵へ突入を命じたが、零号は一振りで全員の武器を細かな部品へ分解した。誰にも傷をつけなかった。

「命令は終了しました」

「うん。扉は開いてる」

零号は黒剣を持ち、朝の街へ出た。

王軍が撤退した後、ユーハンは一人で壊れた工房を片づけた。夕方、戸口に長い影が差す。

零号が戻っていた。黒剣は刃、柄、炉石に分解され、背負った箱へ収められている。

「百年分の命令がない明日を見ました」

「どうだった?」

「広すぎました。よって、最初の一日をここで選びます」

彼は剣の炉石を玩具の風車へ組み込み、卓上へ置いた。温かな風で羽根が回る。

「名はアサ。誰にも命じられていない朝、という意味です」

ユーハンが作業台を半分空けると、アサは武器ではなく工具箱をそこへ置き、自分の椅子を隣へ運んだ。