最下位のギルドマスター
王都最大の黎明ギルドで、アステルは雑用係だった。
朝は門を開け、昼は割れた魔石を替え、夜は依頼板の裏へ潜って配線を直す。誰に頼まれても断らず、誰の武勲にも名を添えない。貢献板の表示は零%だった。
ギルドマスターのハルヴェンは、新本部の完成式でその数字を指した。
「黎明に寄生する無能の見本だ。今日限りで追放する」
大広間に笑いが広がった。
アステルは腰の工具袋を外し、受付へ置いた。
「では、管理権も返します」
彼が門を出た瞬間、貢献板が消えた。
続いて依頼板、転移門、報酬庫、治療結界が沈黙する。登録章はただの金属になり、遠征中の班との通信も切れた。ハルヴェンは管理官を怒鳴りつけたが、誰も中枢室の扉すら開けられない。
「雑用係を連れ戻せ!」
護衛たちが街道でアステルを見つけた。彼は戻る気はないと答えたが、転移門の向こうに取り残された新人がいると聞き、足を返した。
中枢室の扉は、彼が触れるだけで開いた。
内部には巨大な水晶があり、その台座へ古い文字が刻まれている。黎明ギルド創設時の設計者名――アステル。
彼は英雄になりたかったのではない。誰でも依頼を受け、報酬をごまかされず、遠くから帰れる場所を作りたかった。運営を他者へ任せ、自分は壊れた部分を直し続けていた。
アステルが水晶へ手を置くと、転移門が再び開いた。取り残されていた新人たちが泣きながら帰還する。
ハルヴェンは周囲の視線を見て、急に笑顔を作った。
「創設者なら話は早い。名誉顧問の席を用意しよう。運営は引き続き私が――」
「数字を人を捨てる道具にした者へ、私のギルドは任せません」
水晶は全業務を再計算した。依頼の流れ、結界の維持、報酬の保証、帰還路の確保。黎明を黎明であり続けさせた仕事が、彼の名へ戻る。
大広間の者たちは、自分の登録章を見つめた。初めて依頼を受けた時、報酬を失いかけた時、遠征先から帰れなくなった時、助けたのはいつも工具袋を下げたアステルだった。名を覚えていなかった者ほど、顔を上げられない。
アステルは中枢へ新しい規約を刻んだ。貢献度は人を追い出す根拠ではなく、見落とされた仕事を探すために使う。評価の仕組みを変える者自身も、常に監査される。
工具袋が再び彼の腰へ戻ると、今度は誰もそれを雑用の印とは呼ばなかった。
《ギルド中枢・真正査定》
旧評価 零% → 真値 百%
総合貢献順位 首位:アステル
役職更新 雑用係 → ギルドマスター
旧ギルドマスターハルヴェン → 登録見習い