最初の旗は壁の上

辺境のハルカ村には、土台だけの防壁が残っていた。前領主は建設税を三年集め、石を十段積んだところで都へ逃げた。以来、夜風に乗る角獣が畑へ入り、住民は「また金を取られるだけだ」と壁の話を嫌った。

新領主ユリアンは、城を囲む計画書を燃やし、畑と家並みの間の百歩だけを完成させると宣言した。

負担は一世帯一口。ただし冬越しの麦が三十日分に満たない家はゼロ、百日分を超える家は二口、商用倉を持つ家は四口。銀貨、石材、作業から選べる。何口払っても議決権は一世帯一票。集めた物は毎朝、壁の入口で数え、余った銀貨は完成日に口数ではなく世帯数で等しく返す。

旧領主に仕えた徴税吏が冷笑した。

「富裕家に四口出させて一票とは、誰が従う」

穀物商のキーラが答えた。

「私の倉が一番守られる。四口は高くない。だが四票で門を閉じられるなら、私は払わない」

彼女は石材四台を最初に差し出した。冬麦の少ない家は免除札を隠さず胸に下げ、代わりに可能な者だけが水を運んだ。石工、羊飼い、菓子屋、流れ者。作業台帳には身分欄がなく、積んだ石の段だけが記された。

三日目、旧領主が残した徴税箱の底から、封印された銀貨十二枚が見つかった。ユリアンはそれを建設費へ入れず、前の税を払った家を台帳で探して返した。持ち主が亡くなった二枚は共同墓地の修繕へ回すと、全世帯の票で決めた。『昔の盗り方を、新しい善意で洗わない』。その処理を見届けた翌日、作業札はこれまでの倍の速さで埋まった。

百歩の壁は七日でつながった。豪華な塔も、領主専用門もない。中央門には内側からも外側からも開けられる避難閂が付いた。

その夜、角獣の群れが畑へ走った。先頭が壁に角を当てる。石は揺れず、群れは壁沿いに誘導路へ流れ、森へ戻った。麦畑には月明かりだけが残った。

翌朝、余った銀貨が全世帯へ同じ一枚ずつ返された。免除だった家にも一枚が渡る。

村人たちは壁の上へ旗を揚げた。領主の紋章ではない。白地に、開いた門が一つ描かれていた。

ユリアンが手を離すと、最初の旗は誰の家より高く、百歩の壁の上で風を受けた。