最初の裏切り者

常盤アサトの頭上へ、赤い《TRAITOR》が浮かんだ。

《裏切り者選定》

ギルド命令へ最初に違反した一名を裏切り者とする。

最終ボスへダメージを与えられるのは裏切り者だけ。

団長の命令は単純だった。

《負傷者を置き、全員前進》

アサトは倒れた新人を背負った。命令違反。赤い印がつく。

「やはりお前か」

団長は待っていたように除名する。これまでの挑戦でも、命令に逆らった者を「裏切り者」として切り、残った忠実なメンバーだけで最終ボスへ挑んだ。そして一度もダメージを与えられなかった。

アサトはギルド外になっても、TRAITOR表示が消えない。

玉座の《盟約王》が剣を抜く。団長たちの神技はすべて無効。アサトの初期剣だけが一ダメージを与えた。

「戻れ。命令に従うなら副団長にする!」

「裏切り者にしか倒せないんだろ」

団長は唇を歪め、負傷者へ剣を向けた。アサトを従わせる人質にするつもりだ。

元ギルド員の一人がその剣を止める。

《第二命令違反》

だがTRAITORは最初の一名だけ。印は増えない。それでも次々に仲間が命令へ背いた。負傷者を守り、団長の役職章を外し、アサトの隣へ立つ。

ボスへ攻撃できるのはアサトだけ。だから彼は王のHPを削らず、玉座の命令石を斬った。

石が割れ、団長の命令欄が消える。盟約王も武器を置いた。

《最終ボス討伐失敗》

《ギルド命令系統を破壊》

命令石が砕けると、過去のTRAITOR一覧が玉座へ浮かんだ。回復のため隊列を離れた者、捕虜を殺さなかった者、団長の撤退命令に逆らい仲間を背負った者。全員、追放後に行方不明となっている。

盟約王は彼らを殺していなかった。命令へ背いた者だけが入れる裏区画で保護していたのだ。

扉が開き、歴代の「裏切り者」たちが戻る。

アサトは赤い印を外さない。忠誠の反対が裏切りなのではなく、間違った命令へ最初に「違う」と言う役割として、その言葉を自分たちで取り戻すためだった。

《裏切り者選定を終了――最初に裏切られたのは団長の命令ではなく、置き去りを命じられた仲間でした》