最後に砕けたもの

帝都が百年かけて造った処刑台は、一人の男を殺すためにあった。

その男オーゼルは、皇帝サディクが征服した六つの国すべてで目撃されている。ある国では城門を守り、ある国では病人を運び、ある国では子どもを逃がした。見た目は三十歳のまま、記録だけが二百年前まで遡った。

帝国は彼を《災厄を呼ぶ不死者》と布告した。だが広場に並ぶ戦死者の名板には、処刑台まで彼を護送した兵の兄や父の名も刻まれている。

「不死者よ。帝国へ跪け」

皇帝が言う。

オーゼルはすでに片膝をついていた。ただし皇帝ではなく、処刑台の外に並べられた戦死者の名板へ向いている。

「彼らへだ」

その答えに、サディクは聖金の大剣を抜いた。

「ならば、その姿勢のまま消えろ」

皇帝自らの第一撃が、オーゼルの背へ落ちる。

大剣は山を割ったという。実際、処刑台の厚い床は中央から裂け、亀裂が広場の階段まで走った。

土煙が上がる。

オーゼルは片膝をついたままだった。

背中の服に傷はなく、手を置いた膝の角度さえ変わらない。聖金の大剣には、刃こぼれが一つできている。

群衆は声を失った。

大剣を管理する近衛鍛冶師は、欠けた刃を見て膝を震わせた。聖金は竜の炎でも変形しない。目の前の男は防いだのではなく、帝国の誇る硬さそのものを上回っていた。

皇帝だけが笑った。

「余興は終わりだ。天穿槍を」

近衛兵が、黒い長槍を四人がかりで運ぶ。帝国が最後の竜を倒した兵器。突き立てれば、対象の周囲から空間ごと崩壊させる。

「陛下、帝都で使えば広場も――」

「帝国の威光より価値ある石畳などない」

サディクは槍を受け取り、魔力を注いだ。穂先の周囲で景色が歪み、昼の空に黒い穴が開く。

オーゼルは名板を見たまま言った。

「彼らの名を消したのは、お前だな」

「死人に名など不要だ!」

槍が振り下ろされた。

音も光も一瞬遅れた。

次の瞬間、処刑台の上半分が消え、帝城の窓がすべて割れた。黒い煙が渦を巻き、広場の旗を吸い込む。

煙の切れ目から、まず片膝が見えた。

次に、名板へ向けた顔。

オーゼルは同じ姿勢だった。戦死者の名板も、彼の前にあるものだけは無傷で残っている。

皇帝の両手には、天穿槍の柄だけがあった。

穂先から始まった亀裂が、黒い槍身を駆け上がる。

帝国最後の竜を倒した武器は、皇帝の指の間で砕けた。