最後に読み上げられた社内規則
王都鑑定商会の全体会議で、支配人オルダ・ベッセルはサーシャ・ルーヴへ床を指した。
「規律違反者は膝をつけ」
百人の職員が見守る前だった。
サーシャの違反とは、休憩時間に椅子へ座ったことだという。オルダは彼女にだけ席を与えず、鑑定した品が本物でも〈目が腐っている〉と札を破り、昼食を取れば倉庫掃除を追加していた。
「私は就業規則どおり休憩しました」
「規則は私だ。叔父が会長なのを忘れたか」
オルダは笑い、壇上の記録石へ手を置いた。
「これは正式な懲戒会議だ。サーシャが無能を認め、自主退職すると議事録へ残せ」
記録石が青く光る。正式会議では発言を改ざんできないよう、出席者の声と魔力紋を王都本店へ同時送信する。
サーシャが膝をつかずにいると、オルダは彼女の鑑定札を床へ撒いた。
「今月、偽物を二十件も本物と判定した。おまえの給与から損害を引く」
「その二十件は、すべて支配人が判定を変更しました」
「証拠があるのか?」
「今、あなたが正式会議にしてくださったので」
壁の鏡が開き、本店の会長室が映った。そこにはオルダの叔父であるベッセル会長と、監査役たちが座っている。
会長が記録石へ命じた。
『鑑定札の変更履歴を表示せよ』
二十件すべて、サーシャの〈偽物〉判定を、オルダが〈本物〉へ変えていた。その後、取引先から苦情が来ると、変更者欄だけを消そうとしている。だが削除操作にも彼女の魔力署名が残っていた。
オルダは鏡へ向かって叫ぶ。
「叔父様、身内でしょう! この程度、握り潰せるはずです!」
その言葉も正式議事録へ刻まれる。
「サーシャを皆で無視しろと命じたのも、教育です。椅子を捨てたのも、食事を抜かせたのも、辞めさせるために必要で――」
監査役が静かに告げた。
『十分です。すべて記録されました』
オルダは記録石から手を離したが、会議終了には責任者の承認が要る。彼女自身が開始したため、途中では切れなかった。
ベッセル会長は机上の就業規則を開く。
『身内だからこそ、規則を曲げれば商会が終わる』
サーシャは床の鑑定札を拾い、一枚ずつ机へ戻した。最後の札を置いたとき、会長が懲戒条項を読み上げる。
『オルダ・ベッセル。鑑定記録改ざん、賃金不正控除および職場いじめにより、即時解雇を命ずる』