最後の一枚は乾いている

熱が下がった日の夜、文乃は寝具を全部洗うことにした。

 シーツ。掛け布団カバー。枕カバー二枚。汗を吸った薄い毛布。

 一週間、一人で寝て、一人で水を飲み、一人で体温計の数字を見た。回復したと誰かに報告するほどのことではない。けれど同じ布へもう一度眠る気になれず、午前三時半のコインランドリーまで運んだ。

 店内の蛍光灯は、病み上がりの目には少しまぶしかった。

 空調が低く回り、乾燥機の熱が床近くへ溜まっている。外では雨がやみ、軒から落ちる最後の雫だけが間を置いて鳴った。

 寝具を二台へ分ける。

 丸い窓の中で白い布が持ち上がり、落ちる。

 持ち上がり、落ちる。

 文乃は椅子へ深く座った。まだ体力が戻っていない。自動販売機まで三歩の距離さえ遠く感じる。

 入口のベルが鳴った。

 大きな籠を抱えた人が入ってきて、奥の乾燥機を開けた。温かいタオルを肩まで積み上げ、扉へ向かう。両手がふさがっていたため、足先で自動ドアの前へ進み、開いた扉を背中で少し押さえた。

 文乃が通るわけではない。

 それでも相手は、後ろに誰かがいるときの癖のように、扉が閉じるまで半秒だけ待った。文乃と目が合う前に、外へ出ていった。

 雨上がりの空気が店へ入り、乾燥機の熱と混じった。

 文乃は立ち上がり、自販機で水を買った。冷たいボトルを一口飲むと、喉の奥に残っていた薬の味がようやく薄くなった。

 乾燥終了の音が鳴る。

 シーツは乾いている。毛布も乾いている。枕カバーの一枚だけ、角が少し冷たい。

 十分追加するか迷い、もう一台の余熱が残るドラムへ移した。硬貨を入れず、扉を閉め、温かいシーツの間へ挟んで少し待つ。空調が回り、時計の秒だけが進む。

 取り出して頬へ当てると、冷たさはなかった。

 最後の一枚まで乾いている。

 家へ戻り、寝具を掛け直す。洗剤の匂いと、乾燥機の熱が部屋へ広がった。スマートフォンに新しい通知はない。

 文乃は誰にも連絡せず、清潔な枕へ頭を置いた。

 一人で過ごした一週間は消えない。けれど今夜の静けさなら、乾いた布の内側で朝まで持ちそうだった。