最後の一票は裏切り者

御堂睦実は、椿原凜太の端末を彼の前へ押し戻した。

「自分へ投票して」

篠宮薫平と五十嵐亜矢は、すでに凜太へ票を入れている。睦実も同じ。三対ゼロ。しかし勝利灯は点かない。

規則は一つだった。

〈裏切り者が全投票権者の票を得た場合、投票者全員を解放する〉

凜太が黒い役職札を持っていることは、開始一分で判明した。彼の嘘を睦実が崩し、三人は票を合わせた。

問題は四票目だ。

裏切り者にも投票権がある。全投票権者の票を得るには、凜太自身の一票が必要だった。

「押すわけがない」と凜太は笑う。「俺へ全票が入れば、処刑される」

「規則のどこに処刑と書いてある?」

凜太の笑みが止まる。

「裏切り者へ全票を集めるゲームだぞ」

「だから、集まった後の結果を読んで。『投票者全員を解放する』。あなたも投票すれば、投票者に含まれる」

主催者は、裏切り者が自分の処刑を恐れ、最後の一票を拒む姿を期待していた。非裏切り者は説得に失敗し、疑い直し、やがて仲間割れする。だが文面には、裏切り者を除外する語が一つもない。

『裏切り者の自己投票は、敗北の受諾を意味します』

「意味はあなたの演出。判定は文面」

残り二十秒。凜太は三人を見る。

「俺が押さなければ、お前たちは全員死ぬ。命乞いをしろ」

薫平が拳を握る。亜矢は唇を噛む。

睦実だけが首を振った。

「あなたも死ぬ。首輪は四つとも同じ赤。主催者は、裏切り者だけ助けるとは約束していない」

凜太が天井を見る。返事はない。その沈黙が、睦実の推理を証明した。

残り三秒。

凜太は自分の名前を押した。

〈椿原凜太、四票〉

〈全投票権者による投票を確認〉

〈投票者全員を解放〉

四つの首輪が一斉に落ちた。

『裏切り者まで生還させて、勝ったつもりですか』

睦実は凜太の黒札を裏返した。裏面には〈仲間を売れば単独生還〉とある。ただし、それも主催者の誘いであって規則ではない。

「あなたは一人だけ得をする人間を作りたかった。でも、全員という言葉に、その一人まで入れてしまった」

四人は同じ出口を通る。凜太は最後まで誰とも目を合わせなかったが、足は止めなかった。

投票盤には四つの同じ名前が残る。満場一致は処刑ではなく、主催者の意図への不信任票になっていた。