最後の上映予約

閉館する映画館「銀幕舟」で、最後の貸切上映が二重予約になっていた。

二十二時、予約者は私、初瀬川まどか。もう一人は「市来朔太郎」。支配人の柿崎さんは困った顔で、映写技師の烏丸さんは「上映できるのは一度だけだ」と言った。

私は十年前まで、ここでアルバイトをしていた。父が亡くなったあと映画を見られなくなり、就職を機に離れた。閉館を知り、子どもの頃に父と見た古いアニメを、誰もいない客席でもう一度だけ見るつもりだった。

市来さんは白い杖を持つ老人で、「私の予約は紙です」と、擦れた半券を出した。予約に関われたのは柿崎さん、烏丸さん、市来さん。手掛かりは三つあった。

市来さんの半券には、二十二年前の日付。映写室には、希望したアニメではなく「落とし物」と書かれた短いフィルム缶。そして売店には、父が私にだけ作った、塩を半分にしたポップコーンが二つ用意されていた。

「烏丸さん、紙の予約を今日へ移したんですね」

老映写技師は、黙ってフィルム缶を撫でた。

二十二年前、市来さんは館内で小型カメラを拾い、忘れ物として預けた。現像すると、映画館のロビーで父が幼い私を撮った映像が入っていた。父は受け取りに来たが、「娘が大人になったとき上映してほしい」と頼み、紙の予約券を一枚残した。その半券を市来さんへ渡し、「拾ってくれた人も一緒に」と約束した。

その後、父は病気になり、予約日は決められないまま亡くなった。市来さんは自分の拾ったカメラが誰かの宝物になったと知り、いつか上映に立ち会いたいと、古い半券を持ち続けた。視力を失ってからも、音だけなら覚えていると言った。

烏丸さんは閉館日、私のオンライン予約を見つけ、二十二年前の紙予約を同じ時刻へ書き込んだ。先に事情を話せば、私は逃げると思ったからだ。

スクリーンに、若い父と、小さな私が映る。映像の中で私はポップコーンを落とし、父が笑いながら拾っている。市来さんはその笑い声に耳を澄ませた。

上映が終わっても、誰もすぐには立たなかった。

柿崎さんが売店の灯りを消す前に、紙袋を一つずつ渡した。私は市来さんの手を取り、温かい粒を一つ乗せる。

「塩、少なめなんです」

「では、思い出は多めに」

二人で最後のひと口を食べた。