最後の桁は四
地域再生ファンドの最終投資委員会で、雁木原理人は地方企業調査を始めて半年のアナリストだった。廃校をデータセンターへ変える「ノースグリッド」は、自己資金二十四億円を用意し、同額の投資を求めている。
銀行残高証明書には「2,400,000,000円」。銀行支店長の署名と角印もあり、マッチング資金の条件を満たしていた。
理人は証明書右下の照会番号を銀行システムへ入力した。表示された原本残高は二億四千万円。紙にはゼロが一つ多い。
創業者は、照会システム側が千円単位で表示しているのだと説明した。
原本には単位「円」とある。さらに照会番号の最後の検査数字は4のはずなのに、提出書面では7になっていた。残高欄を書き換えた後、QRコードを作り直したため、銀行の検査式と合わなくなっている。
角印も調べると、銀行印ではなかった。融資相談会で使う受付スタンプの画像を切り抜き、支店長署名は過去の案内状から複写していた。支店長本人は残高証明の発行を否定した。
残る二億四千万円も、前日に投資仲介会社から借り、証明日翌朝に全額返済されている。資金は四十八時間しか口座になかった。
ファンド専務は、土地と設備を担保にすれば不足分は埋められると言った。理人は廃校の賃貸借契約を示した。所有権は自治体にあり、担保設定は禁止されている。
創業者は、今日の投資が止まれば地域の雇用百人が消えると訴えた。
理人は残高証明の最後の桁を指した。
「雇用を作る前に、二十二億円を紙で作っています」
銀行支店長を電話会議へ呼ぶと、証明日時点の残高は二億四千万円で間違いないと回答した。提出書面の紙には銀行専用用紙の透かしもなく、市販のコピー紙だった。創業者は融資予定分を含めたと説明を変えたが、融資申込書さえ提出されていなかった。
委員長が二十四億円の公印を朱肉から離した。検査数字4になれなかった7が、地域再生の決裁を最後の一桁で止めた。