最後の消灯係
廃校になる学校で、最後に明かりを消すのは誰か。
私たちはその役を勝手に引き受けた。
閉校式が終わり、先生も卒業生も帰った夜。校舎の裏口から入り、教室を一つずつ回った。
本当は全部消灯されている。
私たちは懐中電灯をつけ、思い出のある部屋で一度だけ明かりを点け、それから消した。
一年の教室。
喧嘩した階段。
文化祭で泊まり込みそうになった準備室。
図書室。
音楽室。
「これ、意味ある?」
親友が聞いた。
「ない」
「じゃあ何で」
「終わったって、自分で確かめたい」
学校がなくなることは、大人たちが何年も前から決めていた。生徒数、維持費、統合先。説明会では何度も数字を見た。
でも、数字だけでは終われなかった。
三階の教室で明かりをつける。
黒板には、閉校式で書かれた寄せ書きが残っていた。
『また会おう』
『忘れない』
『ありがとう』
親友は窓際の席へ座った。
「春から、別の学校だね」
統合先でも同じ学年だが、クラスが一緒になるとは限らない。
「今より大きい学校」
「迷子になるかも」
「そのときは連絡」
簡単な約束なのに、声が震えた。
教室の明かりを消す。
窓の外の街灯だけが机を照らした。
最後は職員室だった。
消灯スイッチへ手を伸ばすと、机の上に小さな紙があった。
『最後の消灯係へ。戸締まりもお願いします』
校長先生の字だった。
忍び込みはばれていた。
隣に鍵束が置いてある。
私たちは顔を見合わせた。
大人には言えない計画のはずが、大人に見守られていた。
それでも、誰が来るかは書かれていない。校長先生は、私たちだと決めつけず、最後の誰かへ役目を残したのだと思う。
職員室の明かりを消した。
廊下が完全に暗くなる。
裏口から出て、鍵を閉める。
かちり、と小さな音がした。
翌週、工事用の柵が校舎を囲んだ。
私たちは統合先の制服を着て、遠くから見た。
「最後に消したの、私たちだね」
「校長先生も知ってる」
「三人の秘密」
親友は笑った。
学校の終わりを、自分たちの手で暗くした夜。
その暗さがあったから、新しい校舎の最初の朝は、前より明るく見えた。