最後の烽火石
バルザンは、主君の炉から取った黒い火打石を一つ持っていた。
国境の烽火台では、白い石は援軍、赤い石は退却、黒い石は国の消滅を意味する。黒を受け取った砦は守るのをやめ、兵を民へ戻し、最後の火だけを上げる。山々の烽火が連なれば、散った部族は王朝が終わったと知る。
敵軍はすでに王都を落としていた。バルザンの主君は首を城門へ晒されている。命令を出したのは処刑前だった。
彼は火葬人に化けた。灰色の衣をまとい、戦場の死体から薪代を取る男を装う。黒い石は火葬用の道具にしか見えない。目的地は敵陣の向こう、最西端のカラ砦だった。
第一の柵では、兵が死体を一つ押しつけた。
「これも焼け。臭う」
バルザンは荷車へ積んだ。死体は味方の騎士だった。兜を外すと、昨日まで同じ天幕で酒を飲んだハザクの顔が出た。
敵兵は反応を見ている。
「知り合いか」
「死人はみな客だ」
バルザンはハザクの口へ灰を詰め、顔を隠した。
第二の柵で、徴発官が火打石を取り上げた。
「黒曜か。値がつく」
ただの黒い石なら渡せる。だが主君の炉で七年焼かれ、中央に白い筋が入った石は一つしかない。カラ砦の老将はそれを知っている。
「死体一人につき銅貨一枚。石を取るなら、あの死者を生き返らせて払わせろ」
徴発官は笑い、石を地面へ投げた。欠けた。白い筋が二つに割れる。
バルザンは拾い、何も言わなかった。怒れば価値を教える。
最後の関門には、王都の門から移された首が並んでいた。中央に主君の首。敵の隊長はそれを指した。
「こいつも焼くか」
「高すぎる客だ。薪が足りない」
隊長は満足して道を開けた。
夜明け前、バルザンはカラ砦の崖下へ着いた。敵陣で積まれたハザクの死体を荷車から下ろし、その胸に黒い石を置いた。砦兵は縄を下ろさない。王都陥落の噂を、敵の罠だと疑っている。
バルザンは石を鉄へ打ちつけた。火花が一度散る。二度目で欠けた半分が谷へ落ちた。残った半分を掲げると、白い筋が朝日に見えた。
楼上に老将ゼレクが現れた。
「陛下は」
「昨日、死んだ」
「命令は」
バルザンは黒い石を見せた。それ以上の言葉はなかった。
砦へ引き上げられた彼は、烽火台の薪の前に立った。兵たちは鎧を脱ぎ、槍を地面へ置いていく。国を守れという命令より、国はもうないという命令の方が重かった。
ゼレクが最後の半石を受け取り、火打ち金へ当てた。
火花が枯草へ移る。
カラ砦に最後の烽火が上がり、遠い山で次の火が一つ灯った。