最後の荷札は自社宛て

高級家具メーカーの輸出金融会議で、八束野里緒は国際宅配会社の若手業務員として、ホテル用椅子五百脚の配達証明を確認していた。海外販売会社へ三億五千万円で輸出し、売掛金を担保に融資を受ける案件だった。

荷札の宛先は「PACIFIC GRAND HOTEL, SINGAPORE」。受領書には現地担当者の署名があり、配送完了時刻は午後四時二十分とある。

里緒は荷札の二次元コードを読み取った。文字で印刷された宛先と異なり、コード内の配送先は家具メーカー本社裏手の第三倉庫だった。

営業部長は、輸出前の集約倉庫を一時宛先にしただけだと説明した。

だが追跡記録は第三倉庫で「最終配達完了」。空港搬入も通関申告もない。受領署名者はメーカーの倉庫主任で、同時刻の入門記録も残っている。

五百脚の梱包は輸出仕様ではなく、国内保管用の薄い覆いだけ。船積書類のコンテナ番号を照会すると、別会社が輸出した冷凍魚の番号だった。重量も椅子五百脚の二十トンではなく、冷凍魚十八トンになっている。

海外販売会社はメーカー社長の親族が設立した休眠会社で、ホテルとの納入契約はなかった。受領書のホテル印も、旅行サイトに掲載されたロゴ画像から作られている。

営業部長は、ホテルとの本契約は来月まとまると主張した。

「先行して生産と売上を立てただけだ」

里緒は配送証明の自社確認欄を空白のまま戻した。

「最後の荷札が御社の倉庫なら、輸出の最後はまだ始まっていません」

里緒はホテル本部からの回答書も示した。家具の発注も、販売会社との交渉もない。第三倉庫では五百脚に「国内展示会用」の札が付けられ、翌月の催事へ搬出予約されていた。海外へ売った椅子を、国内で展示品としてもう一度使う予定だった。

第三倉庫の責任者も、輸出品を預かった認識はなく、国内在庫として棚卸ししたと証言した。

銀行役員が三億五千万円の融資決裁を止めた。五百脚は海を渡らず、自社宛ての荷札の下で並んだままだった。