最後の袋を置いた人

新築アパート〈風見台〉では、入居三か月でごみ問題が続いた。

生ごみ、割れた家具、塗料缶。決まって一〇一号室の前へ置かれ、住人の伏見野澪佳が犯人扱いされた。

二階の自治会代表・壬生谷柊真は、掲示板へ毎週書いた。

〈一〇一号室は分別を守ってください〉

〈改善しなければ退去を求めます〉

澪佳は、置かれた時刻には仕事中だと説明した。壬生谷は「口では何とでも言える」と切り捨てた。

大家は防犯カメラの増設を決めた。

その夜、また袋が置かれた。壬生谷は翌朝一番に写真を撮り、住人を集めた。

「これで最後です。大家さん、一〇一を追い出してください」

大家は管理室の画面を開いた。

午前二時四分。帽子とマスクを着けた人物が、壬生谷の部屋から袋を運び、一〇一号室の前へ置いている。顔は隠れていたが、非常階段側の別カメラには、部屋へ戻ってマスクを外す壬生谷が鮮明に映っていた。

壬生谷は、撮影者が自分に似せたのだと叫んだ。

袋の中には、壬生谷宛ての宅配伝票、彼が修理中のバイクの部品箱、自治会掲示用紙の切れ端が入っていた。塗料缶の色も、彼の部屋のベランダで塗った棚と一致する。

さらに過去映像を遡ると、壬生谷は毎回、自分で袋を置き、翌朝“発見者”として写真を撮っていた。

理由を問われると、壬生谷は澪佳が挨拶を返さなかったからだと言った。

「自治会を軽く見る人間へ、共同生活の厳しさを教えただけだ」

澪佳は、仕事の電話中で挨拶に気づかなかった日を思い出した。それが最初の袋の日だった。

大家は、反復的な不法投棄、他住人への虚偽の中傷、自治会権限の悪用を理由に、壬生谷へ契約解除を通知した。澪佳への投稿は保存した上で削除し、謝罪文と訂正文を全住人へ配布するという。

壬生谷は大家へ迫った。

「私は自治会をまとめてきた。私を出したら建物が乱れるぞ」

大家は、連絡網を澪佳を含む複数人の輪番制へ変更した。

「一人に任せたから、証拠を作る側まで代表になったんです」

最後の袋が証拠品として回収され、掲示板から一〇一号室への警告文がすべて外された。

代わりに〈壬生谷柊真・契約解除決定〉の通知が管理室へ掲示された瞬間、退去を求め続けた男だけが、風見台から出ていく最後の住人になった。